ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ LOST 人間失格 (感想)

おすすめ度:150%
何者か度:100%
代行サービス度:100%
原題:인간실격 / Lost (全16話)

LOST 人間失格 韓国ドラマ 感想考察レビューあらすじ

「人間の資格がない」暗澹たる日々の中で出会う男女が見つける道とは。2021年放送のヒューマンラブストーリー。

あらすじ・キャスト

訪問でハウスキーパーをしているブジョン(チョン・ドヨンさん)は、鬱屈した日々と自分自身に嫌気がさし、バスの中で泣き出してしまう。
そんなブジョンの様子を観ていた代行サービスを行うガンジェ(リュ・ジュンヨルさん)は、ハンカチを差し出す。
友人が亡くなったばかりでもあったガンジェもまた、自身の生き様に対してどうしようもない気持ちを抱いていたのだった…。

感想

とっても良かったです。胸を強く打たれるようなドラマでした。
暗めでドラマチックさは皆無ですが、詩的で現実的、そして切なくて…。まるで読書をしているような、非常に惹きつけられるドラマでした。
好き嫌いが別れる作品かなと思います。ただ、最後まで観た方は「良かった…」と一様に思われるタイプのドラマではないでしょうか。
それぞれ登場人物は繋がっていますが、まるで群像劇のようにも描かれています。
「何者にもなれない」・・・そんな人間が持つ本質的な「孤独さ」。
それは社会的地位や家族や友人の有無は関係なく、うつろで哀しい、しかし誰しもが持っている部分にフォーカスした内容です。
この作品は細かい考察やシーンの意味を考えるドラマというよりも、キャラクター同士の会話にじっと耳を傾け、彼らの心情をおもんぱかることでこの作品自体を身近に感じ、気持ちを揺れ動かされるような作品だなと感じました。個人的には朗読を聴いているようも感じました。

私の大好きな映画の1本に『マグノリア』があるのですが、その中の台詞で「愛はあるのに、愛情のはけ口が見つからない(意訳)」というものがあります。このドラマを観ながら、ちょうどその台詞を思い出したりしていました。
どこか空虚で満たされないものを日々抱えるなか、日常の「嫌な出来事」が積み重なって、グラスから水が溢れてしまうような限界の日をむかえてしまった人たちがすれ違い、出会います。
そのような感情の重なりの表現は大袈裟でなくとても現実的だったからこそ、視聴していて共感もしましたし、不思議な美しさを作品から感じました。
また作品として「誰も間違っていない」というスタンスが根底にあったのも、個人的には大変良かったと感じました。

出演されている俳優さんですが、まずはガンジェ役のリュ・ジュンヨルさんが素晴らしかったです!
個人的にかなり大好きな俳優さんなので、バイアスはかかりまくってはいますが、今作ではどこを切り取っても満点でした。
ジュンヨルさんが持つ独特で圧倒的だけれど主張しすぎない存在感は、いつも目が奪われてしまいます。
そんな一瞬でシーンをどこか制圧するような魅力が何を考えているのか表面からは決して掴めない、ガンジェという魅力的な役にピッタリでした。
そしてチョン・ドヨンさんも本当に本当に素晴らしくて、まさにブジョンそのものでした。
ブジョンの夫が作中で彼女を「島のような人」と表現していましたが、すごいセリフだなと思わせられました。
そのような何処か孤高で寂しい、しかしそのようにしか存在できないブジョンという人間をドヨンさんは完璧に演じられていました。
その他の俳優さんたちも、完璧で微妙な表情や声のトーンなど繊細な演技が、よりこのドラマを上質なものにしていて感動しました。

全16話で、序盤の入りが少々掴み難いかもしれませんが、5話あたりから登場人物の線が次第に繋がって来ます。雰囲気的にスローはお話に思えるかもしれませんが、テンポは決して悪くないと感じました。
万人受けする内容ではないかもしれませんが、気になった方は是非視聴して頂ければと思います。
非常に美しく丁寧に作られていたドラマだったと感じました。

ゆるいネタバレありの感想

LOST 人間失格 韓国ドラマ 感想考察レビューあらすじ

ブジョンは日雇いのハウスキーパーとして働いています。
しかし、以前は出版社でそれなりに夢を持って作家として勤めていました。ただトラブルの末に仕事をクビになったことは、夫ジョンス含め誰にも言っていません。
彼女が直前までライターとして手掛けた、大女優アランの自伝はブジョンの名前が消され出版され、世間をにぎわしています。
そんなある日、彼女の元に警察からの手紙が。家に来ていた姑がその手紙を開封し、ブジョンは姑と夫との間にひと悶着あります。手紙の内容ですが、ブジョンがある芸能人についてのネットへの書き込みが問題視され、警察からの出頭要請だったのです。
元々夫のジョンスとは会話も少なく冷めた夫婦仲のようですが、一般的な”不仲”の関係のようでもありません。ジョンスは自分の妻について、ますます分からなくなるのでした。

この警察からの手紙は、ブジョンの心のグラスの水が溢れてしまう最後の一滴になります。
耐えきれずブジョンは1人暮らしの父の元へ行き、帰り道のバス停でついに「私は人間の資格がない」「失敗した」と父の前で泣いてしまいます。
そこに居合わせたのが、ガンジェでした。
バスの中でも引き続き泣いていたブジョンを見て、ガンジェはついハンカチを差し出します。
ガンジェもまたその日、友達だったジョンウが自ら死を選び、複雑な気持ちが渦巻いていたのでした。
ブジョンの父親の住むマンションの部屋がガンジェの住居と同じ階ということもあり、2人は次第に顔見知りになっていきます。

LOST 人間失格 韓国ドラマ あらすじ評価レビュー

ガンジェ
どこへも届かない手紙のように、ガンジェの気持ちを読むセリフが頻繁に入ります。
父が病死してから、いつしか彼は愛情の重さをお金に換算する生活を送るようになっていました。母親に対しても同じです。
「何者にもなれなかった」自分に後ろめたさを感じています。何者かになるための世間の戦いの場に出る事に怯み、逃げていることを痛感しています。
かつて仲間だったジョンウが自死し彼の足取りを追う内に、自身の生き様とジョンウの暗い影が重なります。
「どこから間違えてしまったのか?」何度も問いますが、答えは分かりません。
その頃、ジョンウが頼まれていた”仕事”がガンジェに回って来ます。
その仕事こそ女優アランを悩ませていた相手、ブジョン。彼女の弱みを探れというのです。
かつてジョンウもまた、ブジョンと繋がっていたのです。
彼女は一体何者になりたかったのか?ガンジェはブジョンという人間に興味を強く持つのでした。

ブジョン
大学院を出て作家になりたかったブジョン。今は老いた父親は、娘ブジョンに生きる希望を見出しています。
出版社を辞め別の仕事をしていますが、父を決して悲しませたくなかったブジョン。
しかし警察からの出頭要請を発端に、父を悲観させてしまうかもしれないという現実を突き付けられ、ブジョンは恐れを抱くことに。
何度か偶然且つ必然のようにガンジェに出会ったブジョン、彼の仕事を知り「会いたいです」と”仕事”を依頼するのでした。
ブジョンはガンジェに「ただ横になりたい、何もせず、一緒に」と伝えるのでした。
ホテルでの2人は親密さのある雰囲気の中でも、どこか静謐で穢れのない2人だけの宇宙にいるような時間を過ごすのでした。

愛のかたち
ラスト2話が本当に秀逸でしたが、その中でも最終回、特にブジョンと夫との会話はすごいなと純粋に思いました。
この夫婦ですが、過去に夫の元彼女と浮気(疑惑)があったことが明かされ、作中でも再び関係が浮上します。
夫も彼女のことが今もなお好きと認めながらも、妻ブジョンのことも大切に思っていることが行動の節々からわかります。
そしてそれはブジョンも同じ。ガンジェが好きだと認めますが、夫と別れる気は皆無のよう。
この2人の会話の流れがとてもリアルで、この作品を象徴するようで良いなと非常に印象に残りました。
そして、この彼らの感情と関係に第三者があれこれ言う隙間と権利は無いはずです。
このブジョンと夫の関係もそうですが、ガンジェ親子もそうですが、非常に繊細で多様な愛情の描写とその異なる形が描かれていて丁寧さと気付きを得ました。

--
このドラマですがここに書きたいことが山ほどあるのに、考えをまとめて書くのが本当に難しい作品でした。
いつも下手くそな感想をダラダラと上げていますが、今作については輝くようなセリフや、涙が出るシーンが沢山あったのにも関わらず、いつも以上に自分の気持ちがまとまらず、また語彙がないために文章で説明しにくく、自分でももどかしい限りです。(読みにくいと思います、すみません…)

今作は予想通りオープンエンドで終わったドラマですが、他の作品よりもわかりやすくポジティブで能動的なラストシーンでした。そのため、個人的には大変スッキリとした気分で視聴を終えました。
深みと優しさ、哀しみが上手く表現された、見事なドラマでした。出会えて良かったです。

こちらもおすすめ: