ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国映画 俺の心臓を撃て (感想)

おすすめ度:77%
フレンド度:100%
殻を破る度:100%
原題: 내 심장을 101分

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同じ日に同室で精神病院に入院した2人のチャレンジとは。2015年公開のヒューマンストーリー。

 あらすじ・キャスト

同じ日に精神病院に入院となったソンミン(イ・ミンギさん)とスミョン(ヨ・ジングさん)。2人は同室で過ごす内に、静かな友情が芽生え始める。
しかし従順で大人しいスミョンとはまるで違って、激しい気性を持つソンミンは度々病院内でトラブルを起こし、脱走を試みるが…。

感想

原作はチョ・ユジョンさん作の同名の小説とのことです。

特に中盤まで若干ストーリー展開がもったりしているなあと感じたのと、精神病院内での職員の態度の過度な描写に陰鬱な気持ちに度々させられ、作品の意図がイマイチわからない…と思っていました。が…!
ですが!!エンドロール前に出てくるメッセージを読んで、描きたかったのはコレだったのかと、そこでやっと気付き(遅い!!)なるほど!!?!と思って、観る目が180度変わりました。良かったです。

共に異なる症状や家庭の事情を持ったソンミンとスミョンという2人の男性。
精神病院という世間とは少し隔離された状況で過ごしていく中で、2人の考え方の違いや自分の殻を破る姿を描いていきます。
また、社会での後ろ盾のない若者に向けての強いメッセージを持たせたストーリーになっていました。

ゆるいネタバレありの感想

 
 
 
 
 
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イ・ミンギさんインスタグラム

静かに存在するスリ希望病院という精神病院。ここには色々な患者が入院していますが、殆どの人は退院せずにずっと過ごしているようです。
職員の患者に対する扱いは非常に悪く、時に暴力的に振る舞うことも多々あります。そんな病院に、ソンミンとスミョンは同じ日に「送り込まれる」ことに。

静かで従順な態度を示すスミョン。過去に母親の事件から、ハサミを過度に恐れパニック症状になったりします。
一方のソンミンは行動派で反抗的。ソンミンは過去に放火の事件を起こし、裕福な家族からはそんな危険な疎ましく思われており、強制的に入院させられたようです。

なんとなく2人の背景がポツポツと明かされるのですが、当初は色々とハッキリしない点が多くて、少々ボンヤリしたままお話は進みます。加えて、特に前半は病院内の職員の横暴さの描写がオーバー気味に多く、不穏なムードが漂う展開に。
ただ、ソンミンがとにかく果敢に何度も職員に対抗する様子は、謎の躍動感があり、彼の諦めない態度にはスゴイな…と思ってしまいました。

そんな特に進展もないままの病院内でしたが、事件が起こります。ソンミンの失明の危機です。
視力を失いつつあるソンミン、しかし彼はずっとアンナプルナ(ヒマラヤ山脈)への夢がありました。
このソンミンが夢見る”アンナプルナ”ですが、妙に漠然として荒唐無稽な感じもしますし、また本当に彼が真剣に望んでいるようにも思えましたし、ここはソンミンのキャラ設定と、精神病院という舞台も含めて、後述するソンミンという存在にとって絶妙な「夢」だなあと興味深かったです。

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またスミョンにも事件が起こります。自分を病院に入院させた父親が病気で亡くなってしまったこと。また、自分の考えが勘違いだった可能性を思い出します。
これによって、自分の人生が「このまま」になってしまうという焦りと絶望が彼を襲います。

そんな2人でしたが、これまで何度となくソンミンが病院から脱出しようとしますが、
遂にいよいよ現実的な計画が整い始めます。そして…?

と、「ソンミン&スミョンの病院からの脱走」自体を物語の主軸にしながらも、実はエンディングになって「これは社会と私たち」の話だった!!と今更気付いたのでした。
つまり、スミョンやソンミンが病院から脱走できたのか、という点はあまりポイントでなくなります。

この精神病院は、原題の閉鎖的な社会や、異なる考え方を持つ者に対する排除や矯正という部分の表現であったのでした。だからやたらと過度で暴力的な描写になっていたと思います。
そんな社会や権力に対して、諦め従順になってしまいそうになるスミョン。一方でそれでも自分自身を信じて、可能性を諦めず反抗し立ち向かおうとするソンミン。
その2人態度どちらも正しくて、そしてどちらの面も持ち合わせているのが“私たち"…という、微妙な部分を上手く描いていたと思います。

また、個人的な強引な解釈と考察ですが、スミョンに「だけ見えていた」のがソンミンかな…と、考えました。つまり、スミョンにとってのイマジナリーフレンド(空想の友人)がソンミンです。
スミョンという彼が精神病院に入院させられ(ラストシーンのきちんとした病院)、そこでの苦しい精神状態の頃の時期を共に脳内で過ごした友人こそが、ソンミン…。
だからこそソンミンという人物が何となく「ふわふわ」していて、不思議な設定と演出になっていたのではないかなと思います。
ラストでは本当に彼は存在したのだろうか?という描写になっていたので、そう考えました。ちょっと極端かもしれませんが…。
スミョンは入院後、問題を「克服」し、自分自身の殻を破って社会に再び踏み出そうとした、力強い表情になっていました。きっとそれはソンミンという同士で戦友のイマジナリーフレンドがいたからだと思います。
一見ソンミンをパラグライダーという印象的なアイテムで、彼を"送り出した"形のスミョンでしたが、ソンミンという心の友を「自分の心」から送り出して、自分の壁の中からスミョンが一歩踏み出せたのではないでしょうか。

ソンミン演じるイ・ミンギさんですが、とても不思議な雰囲気がある役者さんなので、今回のこの役柄も謎な感じも残しつつ、存在したのかわからない(個人的な考察)というような部分もしっくりくるような説得力があって良かったです。

また、イ・ミンギさんですが中性的な雰囲気も(時に)持っておられるので、長髪のヨ・ジングさん含め、よく考えるとこの2人のヘアメイクや、シャツドレスのような性別を特定させない衣装も「性別や年齢」をわざとはっきりさせない意図があったのかなと思えます。(キャスティングがスゴイ)
ここからも、何となくこの2人自身が既にメタファーというか、我々の代弁者のような存在に設定されているとも思え、非常に興味深いなと思いました。

ということで、エンドロール前にはっと気付いて、色々戻って考えさせられるストーリーだったなと、とても深く思えました。
視聴後にやはり何か心に波紋を呼ぶようなストーリーは良い作品だなと思うので、この映画も最後で驚きがあって良かったです。メッセージ性が強いですが、その部分を全面的に出していない作風が押しつけがましくなく素敵でしたし、良かったです。

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