ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ ある日~真実のベール (感想)

おすすめ度:72%
タクシー度:100%
生きるため度:100%
原題:어느 날 全8話

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偶然が重なり殺人の容疑者に一夜にしてなってしまった男子大学生…2021年放送のサスペンスドラマ。

あらすじ・キャスト

ごく普通の大学生ヒョンス(キム・スヒョンさん)は、タクシー運転手をしている父親の営業車を勝手に借りて友人たちのいるパーティへ出かけようと出発する。
しかし途中で客として乗り込んできた、ある女性を断れず成り行きで乗せてしまう。年齢も近く気が合った2人はそのまま女性宅に向かい夜を過ごすが、目を覚ましたヒョンスは彼女の異変に気が付く。
拘置所でヒョンスは弁護士ジュンハン(チャ・スンウォンさん)から声をかけられるが…。

感想

イギリスBBC放送の”Criminal Justice”というドラマを原作にしたストーリーとのことですが、私はオリジナルは未試聴です。
全8話という観やすいドラマで、雰囲気も映画色が強くて作品スタイルがブレずに一貫していてカッコよかったです。終始暗く重い雰囲気のため内容的には試聴していて、まあまあのストレス値上昇を感じる気もしました。
しかし、とにかく主演のキム・スヒョンさんの演技がやはり素晴らしくて見応えがあり大変惹きつけられました!ちょっとした視線とか本当にうまいですよね…素人の私ごときが今更コメントする必要もないですが…。
スヒョンさん、目元がやっぱり今作でも大変印象的で視線だけでシーンの空気感をガラッと変えてしまうのはさすがでした!

ただドラマ全体の感想としては、描写不足を感じてしまった点が多く少し残念な印象でした。(すみません、個人の感想です)
平凡な男子大学生がある夜を境に、まさに地獄に転がり落ちてしまうという運命を描いた作品で不条理で不公平、声を上げれない者が損をしてしまうような社会、また生きる為に己を捨て変わらなければならない社会を描写している作品かなと思います。
ただどの登場人物も意味ありげで興味が湧くのですが、全体的に投げっぱなしのキャラクターが多いようにも思えて、ヒョンスの周囲の人々の行動の意図が「なんとなくは分かるけれど…」という程度で濁してあり、推測の範囲内という人物が多くてイマイチ理解しにくくそこに不満を覚えてしまいました。
描きたい主題は犯罪そのものではないのでそこは別に良いのですが、どうしてヒョンスがこの”事件の渦”から逃げきれないのかという、彼を利用し取り巻く人々の思惑をもう少し突っ込んで欲しかったかなとは思いました。
そういう意味では、続きがとても気になって欠かさず観ていたものの、スッキリしない部分が常に残り続ける印象を受けた作品でした。

ゆるいネタバレありの感想

 
 
 
 
 
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キム・スヒョンさんインスタグラムより

ヒョンスはごく平凡で真面目な男子大学生。
ある日の夜、彼は友人たちに女の子も集まるイベントに誘われます。ヒョンスはちょうどその夜偶然仕事を休んでいたタクシー運転手の父のタクシーを無断で借りて、イベント会場に向かうことに決めます。
とはいえ、タクシーの"操作"に慣れていないヒョンス、行灯を点灯したまま走り出してしまいます。そのため、途中でとある女性が乗り込んできます。断りきれないヒョンス。
ここから彼の運命が大きく変わってしまうことに…。

少し酒に酔った、謎めいた雰囲気の魅力的な女性客。
彼女はヒョンスに目的地を漢江と伝えますが、そこは彼女にとって特に明確な行き先ではなさそうです。最初から訳アリそうな女性ですが、ヒョンスはそんな彼女と特別な夜の雰囲気にのまれてしまったかのように、女性の勧める謎の薬を飲んでしまい、そのまま2人は女性宅へ。
彼女の豪華な家でもお酒をたくさん飲み、また追加して別の薬も摂取してしまう2人。酔って果物ナイフを使って危険なゲームをするなどしつつ、なりゆきでそのまま2人は夜を共に過ごします。
数時間後に目を覚ましたヒョンスは自宅へ帰ろうとしますが、女性が動いていないことに気が付きます。
そう、彼女はナイフで刺殺されていたのでした。
パニックになったヒョンスは、救急車を呼ばず一目散に逃げようとします。その際、自分の指紋が付着した果物ナイフも一緒に持ち去ります。しかし、彼女宅から逃げる際ヒョンスの運転するタクシーは飲酒運転の疑いで検挙されてしまい警察へ。
ヒョンスの落ち着かない態度やナイフを所持していたことから、ヒョンスは一気にそのまま女性殺害の有力な容疑者になってしまったのでした。

このように大学生ヒョンスはたった一晩で、とんでもない出来事に巻き込まれてしまいます。
彼はこの時点で救急車を呼ばなかったり、ナイフを持ち去ったりなどのミスをしてはいました。
加えて事件前からも父のタクシーを使ったり、搭載のドライブレコーダーを停止したり、そのまま客を乗せてしまったりと、彼が取った全ての行動が偶然にも裏目に出てしまったのはとにかく不運としか言いようがありません。
警察側が並び立てる全ての証拠がヒョンスに圧倒的不利な状況を示し、文句なしの容疑者ヒョンス。しかし、彼は「殺していない」と必死で主張します。
そんな彼に手を差し伸べるのが、弁護士ジュンハン。安い着手金で軽犯罪の弁護を専門としている、いわゆる三流弁護士のようです。

ヒョンスの態度ですが、中盤まではずっと"泣きべそ”状態。
「僕はやっていない」という一点張りの主張を泣きながら訴え続けますが、そんな話は警察、検察、弁護士そして世論には一切通用はしません。彼がグズグズしている間に、警察と検察は都合の良いストーリーを作り上げ、ヒョンスの罪が知らぬ間に固まりつつあります。
彼はその事を理解するのに刑務所の中でかなりの時間を要しましたが、そのあたりがキム・スヒョンさんの演技での表現が効いていました。彼の愚直な態度の表現は痛々しさがあって、しかし次第に自分さえ信じられなくなってしまうような精神状態に追い込まれていく部分の表現も良かったです。

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そんなヒョンスの最も力になる人物がチャ・スンウォンさん演じる弁護士です。
彼もなんだか胡散臭い人物なのですがヒョンスにできる限りの真摯な態度で向かいます。
この弁護士ジュンハンなんですが、本当にもっと掘り下げて欲しかったなあと非常に残念に思いました。
彼は足の指に皮膚疾患を抱えているのですが、ヒョンスを弁護する間、彼の中の心の葛藤や焦り、諦めを象徴しているように、彼の湿疹は悪化したりおさまったを繰り返します。
ジュンハン弁護士が湿疹をある意味わざと"治しきらない"(元妻に民間療法に頼るなと注意されていたように)のも、彼の自分自身のそんな「止めた方が良いとわかっていても見過せない」性質を表現しているのかなと感じました。(エンディングでのカメオ出演のシーンにも繋がります)
ですが、そもそもジュンハンがどうしてこのような人に手を差し伸べるようになったのか、という彼の背景が気になるところです。
また、元妻が「こんなに熱心なのも珍しい」とこぼすように、ジュンハンは恐らくかつては熱心な人権弁護士だったのではと思われます。今は”三流弁護士”としてフラフラ適当な弁護をしていましたが、久しぶりにヒョンスの弁護で変わった彼を見て、元妻は彼の昔の姿を重ねて思い出し(?)魅力的に思ったのかも知れないと感じました。
ただこのような考察もあくまでも想像の域なので、この辺りが描写不足というか、もう少し掘り下げて欲しかったです。

そしてもう1名が、ト・ジテ(キム・ソンギュさん)です。
このジテはヒョンスが収監される刑務所の"ボス"で、ある意味本当の権力者なのですが、とてもわかりにくい。
ヒョンスに当初から目をかけていて、最終的に彼を助け・使う関係となります。ジテは刑務所内でも薬物を入手し使用ている人物ですが、その入手経路がヒョンス。
ヒョンスの事件の真犯人と繋がりがあったジテが、事情を知っていたかららこそ敢えてヒョンスを送り込み彼を使っていた(ある意味守っていた)のも理解できます。
ですが、このあたりの関係性が割と表面的な描写しかなく、あくまでも推測範囲になっているのが物足りませんでした。
ジテは「誰もオレを信じてくれなかった」と昔の事件を少し語る部分もありましたが…謎。刑務所の”部屋”にミレーの「晩鐘」が壁に飾ってあるのも意味深でしたが。

ヒョンスだけが「何も知らず」、彼は様々な人に使われて物語が進んでいきます。
次第にヒョンスは学びそしてジテに感化され、やっと生きる術を身に着けます。
粗治療なのでしょうか、持病の喘息をなぜか簡単に克服し煙草まで頻繁に吸っている点は正直何が起こったのかよくわかりませんでしたが、とにかく喘息も含めて完全に昔のヒョンス君はさっぱりと消えてしまいました。

終盤になって事件は、今更感も出しながら局面は大きく動きます。
ジュンハンや新米弁護士スジンの努力の甲斐もあったと思われますが、真犯人が逮捕されヒョンスの無実がやっと証明されます。ただ、このバタバタとした展開の真犯人逮捕や、話の顛末はストーリーとしては最早関係なかったのは明確でした。
問題はヒョンスです。
無実を素直に喜び噛み締めるという彼の姿はもうありません。なぜなら、彼は生きる為に変わってしまったのだから…。
刑務所から出ても出なくても同じ、というようにも思えました。彼の自宅の外壁の落書きのようにレッテルは消えず輝いていた彼の人生の時間は二度と取り戻せません。
エンディングのシーンは、彼はもう失うものは(自分自身でさえ)もう無いという描写かなと感じられました。
響くサイレン音が不穏ですが、ジテの言葉「最後まで耐えろ」は刑務所だけの話ではなく、今後の彼の人生そのものに対して、という意味かもしれません。

ということで、意味ありげで色々とその意図を考えられる要素がたくさん散りばめてありましたが、視聴していてもう少し各キャラの考えに共感できる掘り下げたヒント描写があればなあと、強く思った次第です。
大手法律事務所のエリート女性弁護士の元で働くスジンが、何となくジュンハンの意思を受け継ぐ弁護士になるのではないかという希望や、ジュンハンが元妻と再出発をする明るさを見出しながらも、ドラマ感想としては少々微妙な気持ちで視聴を終えました。

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