ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ アンナ (感想)

おすすめ度:99%
ウソ度:100%
エスメラルダ度:100%
原題:안나 / Anna Director's Cut  ディレクターズカット版(全8話)

韓国ドラマ アンナ ドラマ感想レビュー ディレクターズカット

ついたウソ、引き返せない道…彼女の行き着く先とは。2022年のサイコスリラー。

あらすじ・キャスト

地方の街の小さな仕立て屋の一人娘ユミ(ペ・スジさん)は成績優秀だったが、あるトラブルで高校3年の入試直前に1人ソウルの高校へ転校することになる。しかし志望していた大学には不合格に。
期待していた両親に咄嗟にユミは合格した、とウソ告げてしまう。ユミは嘘を重ねることになるが…。

感想

とても面白かったです!!
静かで低い温度のまま淡々と進むドラマで、そこが非常に効いていました。嘘を塗り重ねる主人公をスジさんが美しく、そして哀しく冷ややかに演じられて本当に魅力的でした。

まず前提として、このドラマですが『アンナ ディレクターズカット版(全8話)』と『アンナ(全6話)』の両方がAmazonプライムビデオにあり(2022年8月現在)、混乱する方もいらっしゃると思います。
このドラマの編集を巡り、監督と制作会社Coupang Playの間で揉めた結果、このように2パターン存在しているとのことです。
私はどんなものでも(選択肢が同時にあれば)ディレクターズカット版を観るようにしているので、今作も全8話のディレクターズカット版を視聴しました。
実際の感想は以下に書いていきますが、個人的には8話で完璧に美しくまとまっていて全く文句が無かったので、私はもう6話版を観る可能性は低いと思います。
ですが、この2パターン存在することについてどんな作品でも、大なり小なり様々な部門の意見や政治的思惑で作品というものは”完成”されて世に出るんだな…と改めて考えさせられた次第です。
どの部分がカットされたのか、なぜ制作側はそこが不要だと考えたのかなどは、違う2つの角度から考察すると興味深いのかもしれないとは思います。(ただ作品としては、やはり監督の意志が尊重されるべきでは、と個人的に思いますが)

このドラマはペ・スジさん演じるユミ(後のアンナ)の生き様を描いた作品です。
無駄を省いたミニマムな演出と構成で、個人的にはものすごく好きなタイプの”映像”で本当に魅せられました。
彼女が嘘を塗り重ねる生活の中で、彼女が求めていたものは何だったのか、何を得たのか…色々考えてみるのは面白かったです。
ただ若干、同じように嘘をつき続けていた女性の実話を元にしたNetflixドラマ『令嬢アンナの真実』(ちなみに面白くてオススメです)とネタが少し被っているとも思えました。

ゆるいネタバレありの感想・考察

 
 
 
 
 
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ペ・スジさんインスタグラムより

洪州にある町の小さなテイラーを営む父と話せない母を持つイ・ユミ。家庭は決して裕福ではありませんが、優しい両親は可能な限りのことを一人娘にさせてあげようとしていました。
幼少期に、お店のお客としてやってきたイギリス人夫妻と知り合い、ユミはこの夫人から家では弾くことができなかった本物のピアノやバレエを習い始めます。
そしてもう一つ、この夫人より「ポーカーフェイス」を教えてもらうのでした。
14歳に成長したユミ。
家計が厳しくなりバレエを続けられなくなりそうでしたが、ユミは優しい父にせがみバレエを続け、コンクールで優勝まで勝ち取ります。ライバルだった同級生に勝ち誇った気持ちを得るユミ。
そう、彼女は「心に決めたらやり遂げる」人間でした。

この序盤でユミの意地の強さ、妙な貪欲さと上昇志向、プライドの高さ、甘え上手さなどが端的に表現されていて良かった。また、この両親のユミに対する「我慢させず、させてあげる」という方針が、彼女の性格形成に影響を与えている点は興味深かったです。
高3になり成績優秀だったユミですが、先生と密かに交際していることが問題視され、彼女は強制転校に。好きだった先生はユミを庇うことはしませんでした。
ここでも家計事情を考慮すると厳しい出費だったのではと想像しますが、父はユミを1人ソウルに送り、彼女は下宿しながら初めての受験を迎えます。

最初のウソ
受験は不合格。しかしユミは父親からの電話に「合格した」と咄嗟に嘘をつきます。
ここは彼女の己の失敗を認めたくない気持ちと、離れて暮らす父親を落胆させたくないという純粋な気持ちが混ざったもののように思えました。しかし皆に祝福され、もう後に引けません。
同じ下宿先にはユミの志望校だった女子大に通う先輩、ジウォン(パク・イェヨンさん)と「同じ大学に通う後輩」として仲良くなり始めます。
浪人生ながら周囲には大学生のように振る舞い、学内の広報誌編集部にまで所属するユミ。他大学に通う彼氏もできます。
”絶対にイヒョン女子大合格”を手に入れなければならない状況になりながらも、二重生活では勉強に専念できず、2浪が確定になるユミ。
同時期に彼氏からアメリカ留学に誘われたユミは、昨年認知症を発症していた母親の面倒も見る父に「今回だけ助けて」と懇願し、お金を手にします。
しかしNYに行く直前に彼氏の母親がユミの嘘に気づき、全てが白紙に。

アンナとの出会い
留学をしているフリをしていたユミですが、父が亡くなったと知ります。優しかった父は留学前のユミの「前途を妨げたくない」と病気のことは告げていませんでした。この箇所も父親とユミとの関係性を描いていて、少しユミと父は似ているようにも感じました。
とても面白いと思ったのが、父の遺灰の前で悔やむユミのシーン。しっかりとルイ・ヴィトンモノグラムと思われる彼女のバッグが映っているところ。ここからも色々とユミという女性を考察できます。

周囲には「留学」のまま姿をくらませ、ユミは裕福な一家が家族経営する坂の上にあるラグジュアリーなレストラン/ショップの複合店で働き始めることに。
この一家の一人娘イ・ヒョンジュがユミの直属の上司となります。このヒョンジュのアメリカでの名前がアンナでした。彼女は恐れを知らず、権力を持ち、まさにユミとは正反対の立場の女性。
自由奔放でワガママ放題のヒョンジュ一家の下で3年働いたユミ。しかし休暇を申請した際にヒョンジュ父が激怒し「怠惰で愚か」だと貶され、何かが弾けてしまったユミ。
ヒョンジュの期限切れが近いアメリカパスポート(イ・アンナ名義)とお店のレジのお金を盗み、実家へ。

イ・アンナ誕生
気が向いてジウォンに連絡したユミは、美大予備校教師の仕事を紹介されます。先輩にはアメリカで修士を取得したと言っていたのでした。
実際には大学も通っていないユミは、ヒョンジュ(アンナ)から預かっていた彼女の”証明書”のことを思い出します。ヒョンジュは名門イェール大で美術系の修士号を持っていたのです。
ユミはイェール大卒業としてこの予備校の職を得て、以降イ・アンナとして生き始めます。あの日、ヒョンジュ部屋で彼女のルブタンのハイヒールを履いたように…。

アンナ 韓国ドラマ 考察

ここから”アンナ”としての人生を歩み始めるユミ。
恐らくアンナとしても、当初は職を得れば良いという安易な行動だったかもしれません。
しかし彼女の”真面目さ”と欲のせいで、良くも悪くもわらしべ長者のように仕事や私生活が繋がっていきます。政界進出も目論む有名IT起業家の縁談もまとまり、アンナとしての人生が確立。
もうユミへは”絶対に”戻れないところまで来ていました。
しかし恐れていたことが。”ユミ”を知るあの人物が再び現れたのでした。

第一幕の終了
この作品ですがバレエの『エスメラルダ』が何度かモチーフで出現します。エスメラルダ (バレエ) - Wikipedia

夫の市長選が確定後、アンナは夫に騙されてアメリカに連れてこられた訳ですが、車内ラジオでこのエスメラルダの説明がされています。
彼女が事故車から降りたあたりで「ここまでが第一幕です」というラジオが流れます。この演出は本当にゾクっとしました。かっこよかったです。
つまり、ユミ/アンナの第1幕が終わったその後、2幕目も存在するという事です。
実際この事件後、ユミは姿をくらまします。
その後、彼女はカナダにいることがシーンからわかります。ただここでもユミは偽りの姿で生活している事がわかります。
ちなみに老人2名の会話シーンで、Amazonプライムで視聴した字幕では「アメリカ横断は”ウソ”だ」という箇所で、”ユミは今も嘘をついた人生を送っている”と推測させてはいます。
ですが、実際の英語セリフですと”So, is that the tiny Chinese girl who walked across America?" と女性は言っています。(ただし国名の単語の最後の音節は消されています)
つまり彼女は”国籍”そのものを周囲の人に偽っていると察することが容易で、ここから本気の(?)嘘の人生=つまりユミの2幕目が始まっている、とより状況が理解しやすいかなと思いました。また彼女の国籍を周囲の人は疑っていない(騙されている)のも判断できます。

先輩に「一体どうして(嘘をついたのか)」と問われた際のユミの返答「なんとも説明しがたい」は、本当にその通りなんだと思いました。
取り返しがつかない、でも自分を守ったり何かを得るために、やり遂げるためには必要だった嘘の数々…。
静けさの中で余韻ともの悲しさ、恐ろしさが引き立つピアノの曲もこのドラマにピッタリで良かったです。
また対比シーン(長い登りの坂道/長い登りの階段、先生の裏切り/ニセモノの時計、ヒョンジュの景福宮が全て見渡せる家/ユミの景福宮が見切れる眺めの部屋)なども面白いなあと印象に残りました。
全体的にとても足し引きのセンスが良い作品だった印象です。
ということで、無駄のない非常に細かい巧みな演出が効いていて、私は夢中で視聴しました。視聴後とても満足感が高いドラマで良かったです、おすすめです。

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