おすすめ度:97%
シルム度:100%
犬のシロ度:100%
原題:모래에도 꽃이 핀다 / Like Flowers in Sand (全12話)
急に街から去ったかつての友人、引退も考えたシルム(韓国相撲)選手が気づいた心とは…。2023年のヒューマンドラマ。
あらすじ・キャスト
コサン小さな町でシルム(韓国相撲)の選手をしているキム・ベクドゥ(チャン・ドンユンさん)。
ある日、町にユギョン(イ・ジュミョンさん)とヒョヌク(ユン・ジョンソクさん)が引っ越して来て、ユギョンはベクドゥ属するチームのマネージャーに突然就任する。
ベクドゥはユギョンがかつての幼馴染であるドゥシクではないかと疑う。
そんな町に事件が起こるが…。
感想
ダイヤの原石
地味な作品ですが、大変素晴らしいドラマでした。
コサンという小さな町で、韓国相撲シルムの選手をしているベクドゥ。ずっと"変わらなかった”ベクドゥとコサンの町。
そんなこの町にはある事件が過去にありました。それが現在でも皆の心に”しこり”のように残っていたのです。
ある日、この町にやってきた女性をきっかけに、ベクドゥ自身と街に残っていたモヤモヤとした”しこり”を取り除かれていくというストーリーです。
ラブストーリーもありますが根本的にはヒューマンドラマとなり、日常の一部を切り取った描写になっていて非常に良くできたお話です。
エピソードの1つとして、殺人事件が入ってはいます。
「またミステリパートか~」と、テンション下がりがちになってしまいますが、今作では事件エピソードが絶妙なバランスで物語に組み込まれています。
無駄に事件パートを強く伸ばすでもなく、ヒネリとしてしつこく拘るわけでもなく、「気づき」の単なる1つのきっかけとして使われていて、他のドラマでも見習ってほしいというレベルでの事件となっています。良かったです。
やりすぎない描写
どこか抜けていて、お人好しの主人公ベクドゥ。
彼はこのコサンという舞台の町を象徴するようなキャラクターだったと思えました。
30歳を過ぎても子供がそのまま大人になったような男性ですが、彼自身がそして町が成長する過程を上手く描いています。
コサンの人々も田舎町の特徴を抽出したようなキャラが多いですが、とにかく"やりすぎない”人物描写とセリフ回しは個人的に大変秀逸だと思いました。
また脇役のキャラ設定もしっかりしていて、嫌な人が全く存在しませんでした。(事件関係以外)
映像は映画作品を思わせるショットが多く、素朴で美しかった。
やや曇ったようなトーンのフィルターが多用されており、コサンという町の静かな閉塞感と余白のある優しさが両方見え隠れする雰囲気を際立たせているように感じました。
とにかく全体的にこの作品は人物描写やセリフや映像のセンス、ストーリー展開のバランスがとても優れたセンスの良いドラマだなあと思えました。
そしてキャスティングも脇役含めて本当に良かった!
主役のチャン・ドンユンさんはシルム選手として、体重を大きく増やされていました。
どこかユーモラスさと幼さ、その奥に垣間見える意思の強さと人間としての真摯さが絶妙で、大変役柄にピッタリだと思います。
またドンユンさんは少々なで肩な体格をされておられるのですが、その肩のラインが彼を背後から映すシーンでより一層ベクドゥという人物の持つ朴訥な温かさを表現するのにとても効いていると個人的に印象に残りました。
今作について、個人的には(ネガティブな意味で)内容的に気になった点などはほぼ感じませんでした。
ただ唯一もったいないと感じたのは、特に1話の物語の掴みとペースが正直なところ悪いように思えたところでしょうか。
物語の立ち上がりが結構スローでしたので、視聴を序盤でやめた方もおられるかもしれないなと思った次第です。
2話の終わりぐらいから、本筋がしっかり見え始めて楽しくなるかなあと思います。
1話で脱落しないで欲しいです。
気になった方は是非チェックして下さればと思います。
ドラマとしての派手さは皆無ですが、かなりの良作だと思いました。
ゆるいネタバレありの感想
コサン郡のシルム選手のキム・ベクドゥ。
かつて神童と呼ばれた選手でしたが、その栄光ははるか昔のよう。
30歳を超えてもう中堅となった年齢…、ベクドゥは酔って引退宣言までする始末。
そんな平和なコサンにある事件が発生します。町の貯水池に沈んだ車と亡くなった男性。
時を同じくして、謎の女性ユギョンが町に出没します。
ある日、ベクドゥはトラブルでユギョンに"投げ飛ばされて”しまいます。
その鮮やかな素早さにベクドゥは、ハッとします。
この女性は「ドゥシクに違いない!」と直感し、興奮を覚えるのでした。
ドゥシク…かつてコサンに住んでいた少女。ベクドゥととても仲の良かった幼馴染です。
しかし、その女性は即座に否定。だって彼女は"ユギョン”なんですから。
とはいえ、ベクドゥは納得していない様子。
そんなベクドゥの所属するシルムのチームのマネージャーにあの女性が突然就任したことを知り、彼は驚きます。
ベクドゥは再び彼女の言動からやっぱりドゥシクに違いないと思いますが、なんとそのユギョンは"結婚している”ことを知るのでした。
ユギョンは昔のベクドゥの家で、ヒョヌクという男性と暮らしていたのです。
ベクドゥは会いたかった幼馴染のドゥシクであるに違いないと確信しながらも、同時にその女性が結婚しているという状況にかなり戸惑ってしまった様子。
ユギョンの正体
実はユギョンと彼女と一緒に暮らす男性ヒョヌクは、共に警察官。
コサンで発生した事件と、彼女がソウルで追っていた別件の繋がりを捜査するため、潜入状態でしばらくこの町に滞在していたのでした。
いつもはカンが鈍いベクドゥさんですが、なぜかドゥシク関係になると頭が冴えまくるようです。
ベクドゥはユギョンの正体をズバリ言い当ててしまいます。
そして、彼女があのドゥシクだ、ということも…。
ドゥシクの過去
シルムの戦いにまた八百長問題が浮かび上がります。
そして再び思い出される過去の苦い思い出…。
それには、ドゥシクが突然町から去った理由も含まれていました。
かつてドゥシク父は有名なシルム選手で、その後監督をしていました。
しかし選手に八百長を持ち掛け、その選手は拒否して亡くなってしまったとのこと。
ドゥシク父は証拠がなく無罪となりましたが、噂が広がりすぎたこのコサンの町には住みにくくなり、突然引っ越しすることになった、と。
ドゥシクはこの父の問題と貯水池で亡くなった男性との繋がりを確信して、コサンに強い意志でやって来ていたのでした。
良かったところ
・過去と現在
幼少期からいつも一緒だった幼馴染のドゥシクとベクドゥ、そして仲間たち。
過去のシルムの八百長問題に関する事件は忘れ去られるどころか、ベクドゥや仲間達そして町の人々にとって、後ろめたさのような悔恨のようなしこりが残っています。
特ベクドゥにとって突如途切れてしまった親友ドゥシクとの繋がりは、単純に親友を失った寂しいという気持ち以上だったと容易に推測できました。
大人になった今も11歳のままの気持ちが「止まっていた」ベクドゥ。
事件をきっかけに戻ってきたドゥシクにより、彼の時計がまた動き出し、彼自身がゆっくりと成長していきます。
この作品では過去と現在が色々な場面で対比になっています。
八百長問題、友人関係、ベクドゥのシルムの成績、幼少期の仲間たち…いずれもどこか「悔恨」が共通してあるようでした。
その”濁り”のようなもどかしい、寂しい心理描写が本当に良かったと感じました。
パズルのピースが埋まっていくようなドラマの作り方で、ジワジワと毎回感動しました。
・成長
ベクドゥが達成したシルムの成績のようにわかりやすいものだけでなく、ほとんどのキャラに「モヤモヤが晴れた」ような物語の帰結になっていたところは本当に良かったです。
・エンディング
ラブストーリーとしては、お互いの気持ちを認識し合った点以上に描写しなかったのが特に良かった。
オープンエンド気味ではありますが、彼らの生活は今後どうなるにしろ関係が強固であるのは一目瞭然で、この作品らしい優しさと信頼感が伝わりました。
田舎町のベクドゥとソウルにいた(いる)ドゥシク、その距離感も変に「故郷の良さ」のように押し付けがましくない位置付けにしていたのも大変良いと感じました。
ということで、
さりげない演出と演技、そしてしつこくないセリフのバランスが本当に上手かった。
「良い」以外の言葉があまり見つからないドラマだったなあ…と思います。