ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ 殺人者のパラドックス (感想)

おすすめ度:90%
運のよさ度:100%
チューインガム度:100%
原題:살인자ㅇ난감 / A Killer Paradox (全8話)

殺人者のパラドックス考察レビュー感想

平凡な大学生がある夜をきっかけに、殺人者に…?2024年のクライムサスペンス。

あらすじ・キャスト

さえない大学生のイ・タン(チェ・ウシクさん)はバイトの帰り道にトラブルに巻き込まれ、図らずも殺人を犯してしまう。
捜査する刑事のナンガム(ソン・ソックさん)は何か引っ掛かりながらも、タンは容疑者から外れてしまうのだった。
しかしその後も付近では殺人事件が起こり…。

感想

パラドックスparadox)とは、正しそうな前提と、妥当に思える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉である。(ウィキペディアより

独特のシーン変遷で進むドラマで面白かったです!
コミカルでポップな雰囲気を盛り上げる1つがシーン編集でしたが、テンポも良くて特に素晴らしかった。
ミュージックビデオのように滑らかで楽しい今作の画面遷移ですが、間違いなく目立った箇所でした。
ドラマの内容ですが、平凡で燻った生活を送る大学生タンがある夜殺人者になってしまいます。
そこから彼の歯車が次第に狂ってくるわけですが、彼が重ねてしまう殺人が世間的には別の意味を帯びてくるわけです。
ダークヒーロー化しつつある自分と謎の”能力”への気づき、そんなタンを疑い追う刑事ナンガム…という、お話。
全体的に性的なテーマも根底に持ちつつ、ノワールさと犯罪に対する矛盾への問いかけもなども感じられ個人的には面白みのあったドラマでした。
私は特にタンの「能力」については、色々考察できるような気がして興味深く感じました。(後述します)
ただストーリー的に説得力に欠けるキャラもあったりと、ちょっと雑な感じを覚える点もありました。

演じるメイン2名が、チェ・ウシクさんとソン・ソックさんとなります。
ウシクさんは今作のように平凡ながら何かが…という役柄を演じられると最高すぎるのですが、このドラマでも輝き爆発の演技で大変良かったです。
そしてソックさんですが、個人的に大変好きな俳優さんでもありますし、ただただ演技が素晴らしかったと思いました。
私が見たかった表情演技がこの作品の中では全て見れましたので、ソン・ソック原理主義者としてはスタイリング含めて大変満足度が高いドラマでした。
ただチャン・ナンガムというキャラクターとしては、少々一面的な描写が多かったように思えました。

ポップで凝った編集と素晴らしい俳優陣、全8話でうまくまとまったドラマです。
好き嫌いが出るかも知れませんが、気になった方は是非チェックして頂きたいと思います。
ちなみに性的に…と上に書きましたが、2箇所ほど肌も露骨な描写シーンが(短いですが)存在しますのでご注意下さい。
これはただの個人的な意見ですが、1話目に突拍子もなく出てくる性的シーンは、タンのマインドを表現しているとはいえ私はあまり良いシーンとは思えませんでした。
原作はWEBトゥーンですが、私は未読です。

ゆるいネタバレありの感想

Netflix Korea インスタグラムより

大学生のイ・タン。除隊して半年、特に目的もなく無為に過ごす毎日。
ぼんやりとカナダにワーホリに行こうかと”考えて”いますが、それについて具体的に何かをしているわけでもありません。
「自分の人生にはスペクタクルが足りない」…そう考えているタン君です。
いつものコンビニバイトが夜に終わり、家路につくタン。
途中、道に倒れている男性が。
そういえば彼は今日のコンビニの2人組の客の1人でした。不審に思い、近くにいた連れと思われる男に声をかけたタン。
これが全ての不運の始まりだったのです。
この男に理不尽に暴力的に絡まれたタンは、咄嗟に…いや、本能なのかも知れません。タンは偶然持ち合わせていたハンマーで、何とその男を撲殺してしまうのでした。
正気に戻ったタンは、恐ろしさでその場を離れます。全ての証拠を残したままで…。
事件のニュースは広まり、客2人の足取りを追って警官のナンガムがコンビニのタンの元へやって来ます。
アリバイなどをナンガムに聴取されるタン、その内心は尋常ではないはず。
しかし彼が残したハンマーは現場から忽然と消え失せていて、様々な偶然が重なった結果、タンは犯人ではないとされてしまいます。
なんとなく腑に落ちないナンガム、しかし状況的に問題はありません。
そしてその直後、タンが殺したあの男は実は凶悪な連続殺人犯だったとの報道が。
タンは人を殺したという恐怖心を持ちつつも、自身への罪悪感を打ち消すように、どこか正当化できたような気分になるのでした。
罪から逃げられてホッとしたのも束の間、そんなタンの元に「全てを知っている」女性がやって来ます。彼が殺人者だと知っていて、証拠となるハンマーを預かっている者が…。
タンはこの女の登場で再び気が気ではなくなってしまうのでした。

ダークヒーローと「能力」
目撃者である女に多額のカネを要求されたタン。タンはお金をかき集めます。
しかし嫌な予感は的中。取引場所となる女の家で、タンは再び殺人を犯してしまうのです。
そして今回もまた決定的な証拠が出ず、タンは見逃されてしまうことに。加えてその女もまた、実は殺人者だったと…。
世間的に「(女は)殺されて当然、報いを受けた」そんな会話も聞かれます。
その後もタンは同様にいくつか犯行を重ねてしまうのです。
自分の行った事の恐ろしさに精神的に追い込まれそうにになった頃、彼に謎の協力者が出現します。
彼の名はノ・ビン(キム・ヨハンさん)、警察のデーターベースさえハッキングできる人物です。
ビンは彼の過去の経験から、自分の代わりに世間に断罪をすべく世直し的な”正義”である、ダークヒーローを求めていたのです。
怯えるタンに「極悪人を見極める特別な能力」があるに違いない、ビンは強く彼を諭します。
そういえばタンは何か”感覚”があることを自覚するのでした。
自分は悪いことをしているのではない、世の中を正しているのだ…、完全に自身を正当化してしまうタン。
自信がついたのか、タンはなぜか見た目まで変わってしまうのでした。
しかしここで、刑事ナンガムがビンとタンの繋がりを知り、追って来ます。
加えて、ビンが過去にダークヒーローと”勘違いしていた”、厄介な元刑事ソン・チョン(イ・ヒジュンさん)までタンを追って登場。
タンは葛藤と混乱、恐怖心でいっぱいに。今になって「平凡に暮らすことが1番いい」と知ることに。

殺人者のパラドックス感想レビューネタバレあらすじ考察
殺人者のパラドックス ネットフリックス あらすじ感想考察

気になった点と考察
・タンの能力について
個人的な考察ですが、タンの悪人を見分ける力は単なる”偶然”だと考察します。
鳥肌が立つというのは、その鳥肌のみの能力(?)なのかも知れませんが、悪人を嗅ぎつける部分はただのこじつけだと私は考えます。
彼は最初に「スペクタクルが足りない」と平凡でつまらない日々に不満を覚えていますが、きっかけが重なり一夜にして殺人者になります。
とはいえ、シーンからは私は彼が”偶然人を殺した”とは決して思いませんでした。
イジメのシーンもフラッシュバックで入りますし、最初の殺人以降もそれなりの殺意を抱いて人に向かって行っています。
彼の中で既に最初から、抑圧を殺人を吐口にして解放しているとも思えました。
とはいえ、彼は元々”弱い”タイプの人間でもありますので、やはり恐怖心が勝るわけです。
ですが、ビンに特別な能力を持つと告げられ、”強く”なるタン。
彼の人生は一気にスペクタクルに溢れることに。密かに世直しをしているのですから気分は悪いわけではないはず。

・一文字違いの皮肉さ
タンの能力が”偶然”という理由として、今作で加害者/被害者の裏表の事象が何度か描かれています。
加害者と被害者は一文字違いというセリフ(翻訳ですが)もあります。
このドラマでは、「どの人も悪人」というニュアンスの視点が常にあったのではないかと思うからです。
現にタンはどこから見ても平凡な学生ですが、凶悪な連続殺人犯です。
ビンも共犯ですし、違法に情報を収集したりしていますよね。悪人です。
タンが”能力”で見つけた人達はもれなく悪人ではありますが、世間のどの人もそれなりに「悪人である」…つまり、結局タンがどの人を引っ張ってきても叩けばそれなりに埃が出るのが世間の人なのではないでしょうか。
また、最後にナンガムの父の像が浮かび上がりますが、それも全く同様です。
タンの自己正当化したダークヒーロー像を特殊能力としているのは、皮肉も含めた滑稽さとも私は感じました。
タンは結局のところ「単に運が良いだけの愚か者」のようにも思えたというか。
しかしこれは決してタンだけではありません。ナンガムらも(状況は異なりますが)本質は同じです。
父の事件でソン・チョンを追っていたナンガム、しかし父の犯した罪は?防げたかも知れない会長の死は?
絶対に答えは出ない問題ですが、このドラマではそのようなあやふやな視点を上手く切り込んでいて私はとても面白いなと思いました。

・人物描写
個人的に最も説得力がないと思ったのは、ビンのキャラです。
ナンガムはビンを元々知っている様子ですが、なぜビンがそもそも野放しになっているのかという点。
そして彼の「捕まらない計画」についての自信が一体どこから来るのか、その根拠が理解できませんでした。
そもそもキャラ描写に少々欠けると感じました。
ソン・チョンについても同じで、迫力と怖さはありますが、コイツは一体何なのか?というあたりが永遠に謎で、ただの”そういうキャラ”になってしまっていました。
またメインのナンガムですが、あまり彼のキャラクターとしての深みがあまりなかったのは結構残念でした。
かなりの終盤になって、ナンガムが自身の考えとの現実の差異に何か感じたようなシーンがありましたが、ちょっと少ないと思います。
ドラマの作風的にポップさとテンポを最後まで失っていませんでしたので、そのあたりのじっくりした”重さ”や緻密さ、深みを今回は完全に犠牲にしたのかなとは思いますが…。

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ということで、総合的には私は新鮮味を持って一気に視聴したドラマでした。
荒っぽい箇所もこのドラマの独特のテンポで消化して展開できたのは、本当に良かったと思います。
とにかくキャスティングが本当にピッタリで最高でした。
ナンガムが最後に「お前は捕まる」という言葉がしっかり作品に効いていて、大変良かったと感じました。シーズン2の可能性もありますが、私はこのナンガムのセリフで続編はないのではないかなと思った次第です。
気になるところもありましたが、私はとても面白く思ったドラマでした。

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