おすすめ度:87%
潜入捜査度:100%
質問の意味度:100%
原題:독전 123分
誰も顔を知らない麻薬組織のトップを追う刑事、彼が追った人物とは。2018年公開のサスペンス・アクション映画。
あらすじ・キャスト
麻薬取締局のウォノ(チョ・ジヌンさん)は、2年以上"イ先生"と呼ばれる、謎の人物を追っていた。麻薬組織のトップだが、イ先生とだけ呼ばれ、誰一人その姿を知ることもない、特別な人物…。
そんなある日、イ先生が関連する麻薬製造工場が爆発される事件が発生。
その現場で唯一の生存者である男性ソ・ヨンナク/ラク(リュ・ジョンヨルさん)が発見され、大きく組織に近づくことになる。
イ先生によって無残に捨てられた組織員ヨンナク、刑事であるウォノと手を組み、潜入捜査を行うことになるが…。
感想
毒戦2の感想はこちら
(以下『毒戦1』の感想)
とても良かったです、特に終盤…最高でした!
描写がスタイリッシュな部分も多く、映像の色味もシャープで良かった。
大好きな2人の俳優さんの、リュ・ジュンヨルさん、そしてチョ・ジヌンさんがなんと一緒に主演されていたので、それだけで個人的には奇跡の共演で5億点でした。お2人とも、はちゃめちゃにかっこよかった、最高でした…。
この作品ですが前半がが、凡庸な感じで展開するのですが、終盤からエンディング(!!)が、本当にとんでもないレベルで素晴らしく、そこでプラス10兆点でした。
今までのウォノとヨンナクのという2人の男性の関係性を失わず、「彼らの温度」を保ちながらの静かで美しいラストシーン。
特に、チョ・ジヌンさんの真骨頂だと私が思う表情が拝見できて、身震いするほど秀逸な終わり方でした。大変良いラストでした。
ただ、このウォノとヨンナク以外のキャラクター(特にハリム、ブライアン)設定が、やたらとエキセントリックすぎるように感じました。何となくアメコミ的なキャラのような…。
ですが、視聴後に考えると、メインの2人の"静寂"な部分を際立たせるための存在だったのかもしれないとは思えました。
元は中国/香港合作映画で、そのリメイク作品とのことです。私はオリジナルは未視聴です。また、この作品「完全版」があるそうなのですが、そちらも未視聴です。
チーム長/刑事ウォノ役チョ・ジヌンさん
イ先生絡みの事件を追う刑事。
爆発現場の生存者ヨンナクを使って、潜入捜査をすることを決意。
ソ・ヨンナク/ラク役リュ・ジュンヨルさん
28歳の爆発事故の生存者。
ソ代理としてイ先生の元で働いていた。
爆破事故でイ先生から組織改編のため捨てられたと知り、
ウォノに協力することにする。
ネタバレありの感想
チョ・ジヌンさん所属事務所インスタグラムより
麻薬組織に君臨する、イ先生と呼ばれる人物。謎に包まれていて、その姿を見た人物は誰もいません。
そんな人物を警察の麻薬取締局で地道に1人追っている男…ウォノ刑事です。なかなか進展もなく成果が上がらないウォノに、上司は文句を言いますが、諦めません。
ある日、工場が爆発。その工場とは、イ先生が率いる麻薬組織と関係している場所。協力を申し出た工場関係者も不審死したりと、捜査に当たるチームに緊張が走ります。
そんな時、事故現場の工場から、生存者であるヨンナクが見つかります。
このヨンナク/ラクを"使い"、組織への潜入捜査をすることを思いつくウォノ。
ここから物語が始まります。
当初はこのラクがウォノにやけに簡単に捜査への協力に応じるなあ…と思っていましたが、後から考えるとなるほどな、と理解できるのは良かったです。
この爆発事故のタイミングはラク(ソ代理)が、ちょうど中国のバイヤーであるハリム(キム・ジュヒョクさん)と取引をするタイミングでもありました。
この取引を利用することにする、取締局チーム。
イ先生の使いのソ代理と”パク常務"に扮したウォノが、ハリムと面会することに。
ここは少し面白い展開になっていて、中国バイヤーのハリムと会う際には刑事であるウォノが麻薬組織の常務として会います。そして麻薬組織のパク常務(パク・へジュンさん)と会う際には、中国バイヤーのハリムとして演じます。
中だるみしやすいあたりに、このエピソードを加えるのはメリハリがあって面白かったです。
このハリムという男性ですが、序盤のキャラのせいなのか、かなりインパクトを強く設定してあります。若干わざとらしさを感じる人物すぎるように思えました。
また、ハリムの"女"として、お決まり的に胸を出す女性が出てきますが、いわゆるヤクザ!女!というアイコンのためだけの女優適用という部分はいかがなものかと、いつもこの手の作品を観て残念に思いますが…。
ただ、この女性がイ・ミンホさんのファンという部分は笑ってしまいました。
無事ハリムとの取引を成立させ、ラクはウォノを秘密の「塩工場」に連れて行きます。
そこには耳の聞こえない姉弟2人が、薬の力を借りつつ30時間連続で働き、良質な麻薬を製造している場所…。
そこでウォノはヨンナクの生い立ちを聞きます。
8歳の頃に、バナナと麻薬が入ったコンテナに入って"やって来た”こと。
また、ブライアン理事(チャ・スンウォンさん)と呼ばれる、カリスマ性あふれる新たな人物がラクの道を塞ぎます。
途中、チームのメンバー(ちなみにチョン・ガラムさんでビックリしました)が殺されてしまうことで、ウォノ含むチームがラクに疑惑の目を向けます。
ラク「疑ってますよね」
ウォノ「最初から信じていない」
ラク「平気です、チーム長を信じます」
こうして2人の"謎の関係"は続きます。
2人は取引場所である、ブライアンのヨンサン駅にある麻薬工場へ向かいます。ブライアンの指示もあり、パク常務に殺されそうになるソ代理。そして、ウォノも…。
ですが、警察の介入で、ブライアンが意識を取り戻した前には、あのソ代理(ラク)が。
ラク「イ先生になれたかも、僕が死んでたら…」
そう、イ先生とはソ代理こと、ラクでした。
このシーンですが、リュ・ジュンヨルさんの左から斜め向きの顔から撮影されているのですが、非常に良い感じで固まった笑いをされており、この一連のシーンの表情と冷たさは最高でした。
ラクという人物の冷えた感覚と、どこか人を食ったような部分と寂しさのような部分が見え隠れてしていて、リュ・ジュンヨルさん…とにかく良かったです。
途中で消去法でイ先生はラクしかいないじゃない…とは思っていましたが、この作品、誰がイ先生なのか?という疑問点は全く問題ではなくなる、という部分が後半です。
しばしば、ラクは「僕はヨンナクですか?」「僕を知っていますか?」と口に出します。これこそが、ラクという人物を最も表現している部分そのものでした。
表向きには、この麻薬組織のイ先生=ブライアンだったと処理され報道されます。ですが、本当はラクこそがイ先生だったと知っているチーム。しかし、ウォノは部下に「捜査は終わったと」と告げ、1人旅立ちます。
そう、ラクを探しに…。
ここからが静かでさみしい雪山、作品冒頭のシーンへ戻ります。
ラクが大切にしていた犬のライカに、密かにGPSを仕込んでいたウォノ。このGPSを追跡してやって来たのでした。
ひっそりと存在するロッジ…そこには、事故で吠えれなくなった犬のライカと、あの耳の聞こえない姉弟が。
ラクはウォノに何の目的で来たかと問います。
ウォノ「お前を見失うかと」という回答に、心なしか表情が緩んだような感じも受けました。「いい人だ」と告げ、再び、
ラク「それで僕は誰?」「僕もわからない」と問います。
ラクはウォノにコーヒーを?と彼のために淹れ、2人は銃を机に置いたまま静かに向かい合う時間を持つ2人。
ウォノは「人生で幸せだったことは?」と、静かにラクに尋ねます。その目には涙。
表情を変えずにウォノに視線を合わせるラク、無言ですが彼もまた目が潤んでいました。
ほどなくして映像は屋外へ。静かな銃声が1発響き渡ります。外で犬と遊んでいる2人にはもちろん聞こえません。この対比も美しい。
"2人の内、どちらが誰を撃ったのか"はわからないエンディングになっていますが、この描写は本当に良かったと思いました。
麻薬組織犯罪を追っていたウォノでしたが、そのトップが28歳の男性。
彼は常に「僕は誰」と人に、そして自分に問い続けている人間でした。そんな男性の前にウォノという熱い刑事が「絶対にイ先生を捕まえる」とイ先生であるラクの前で宣言します。(もちろんラクがイ先生とはこの時は知りません)
私は、ラクがこの時に「ウォノが自分自身を突き止めてくれるかも」「答えを出してくれるかも」と、直観的に彼に賭けてみたのではないかなと思います。
ラクがブライアンに「目的があっても、"なぜ"がありません」と、その美学の欠落を指摘するセリフがあるのですが、これはラクが自分自身への問いかけにも思えました。
ラクはずっと「なぜ」を探して生きてきて、この地位に上り詰めたものの、いつまでたっても答えは不明のまま空虚だった訳です。そこへウォノが出現。
もちろん今まで同じように追われてきたラクだったと思いますが、人生のタイミングもあったのかも…。(イ会長が殺されたりしたので)
私はあの「人生で幸せだったことは?」という本質を突いた質問後、涙を浮かべたウォノの表情から、ウォノがラクを撃ったと思います。(ウォノも"それ"を受け入れたくて、あのような表情をしていたような…)
ラクの答えのない、質問ばかりだった無機質な人生を終わらせてくれる人こそ、ウォノだったのかも、とも思います。
ラクは犬のライカにGPSが仕組まれていたのは、絶対にわかっていたと思いますし、どこかでウォノが来るのをずっと待っていた…だからこそ、コーヒーを淹れて彼との最期の「ひととき」を静かに過ごしたのではないかなと感じました。
特にこのエンディングへ繋がるシーンは、窓からの映像もひときわ美しく、2人の静寂な雰囲気と非常に合っていて、ものすごく胸に来る映像になっていて感動しました。
最初は単なる麻薬犯罪系のノワール作品だと思い視聴していましたが、中盤からこれはラクの話なのだと気づいて、一気にものすごく引き込まれてしまいました。
特に終盤からの演出が飛びぬけて素晴らしく、色々考えさせられた良い映画だと思います。
情緒感、後に続く寂しさ、そして前半の激しさの落差、静と動の対比が本当に秀逸で大変印象に残りました。余韻が残りました。