ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ 車輪 (感想)

おすすめ度:57%
トロリー度:100%
法案度:100%
原題:트롤리 / Trolley (全16話)

韓国ドラマ Netflix 車輪 感想レビュー考察

議員の夫と、静かな妻。家族の歯車がズレ始める…。2022年のメロドラマ。

あらすじ・キャスト

国会議員のナム・ジュンド(パク・ヒスンさん)は正しい政治家をモットーに、世間に信頼されながら新たな選挙戦を迎えようとしていた。
そんな夫を支える妻のヘジュ(キム・ヒョンジュさん)。公人の夫と違い自分は決して表には出ないとの約束で、静かな暮らしを好んでいた。
しかしそんな暮らしが一転する。息子の謎の死、そして息子を知るというスビン(チョン・スビンさん)という女性が家に突然やって来るのだった。
ジュンドの秘書官ウジェ(キム・ムヨルさん)と共にジュンドは自身にまつわるスキャンダルを回避しようとするが…。

感想

陰気な舵取り
色々とちょっとガッカリしましたが、先がなかなか読めず面白いなと思いました。
陰鬱で空気が重いドラマですので、その時点で好みが別れるかもしれません。
また出てくる全キャラが不穏で、誰も信用できないという面白さもあるのですが、同時にそこでストレスを感じられる方もいるかもしれません。

個人的に大きく違和感を覚えたのが、タイトル(原題/英題である『トロリー』)についてです。
今作のテーマかと考察できる「トロリー問題(トロッコ問題)」参考:Wikipediaが、そもそもドラマ内の大筋の問題と根本的にズレているように私には思えたところでしょうか。(後述します)
単なる個々のトラブルを”そのテーマのように見せているだけ”のストーリーになっている点は、終始ずっと私は気になりました。
内容的にはトロッコ問題というよりは、Me too運動の方が近い気もしました。
個人的にはドラマとしてもっと更に大きな”隠し球”としてのヒネリが終盤来るかと期待していたのですが、引っ張った割にいわゆる内輪ネタだったなという印象です。

印象に残ったのは、主演のジュンドを演じるパク・ヒスンさんの演技です(特に序盤)。
このドラマを”わかりにくくさせる”演技になっていて、大変素晴らしかったです。
作品自体は独特の濁った暗い雰囲気があり、カメラワークや画面の色合いもよくマッチしているなと思いました。

ゆるいネタバレありの感想

SBS Dramaインスタグラムより

国民の声をよく聴き、小さな問題も拾い上げる正真正銘の”真っ当”な政治家、ナム・ジュンド。
もちろん次の選挙戦を既に見据えて、優秀な秘書ウジェと共に活動しています。
愛妻家としてもジュンドは誠実です。図書の修繕を仕事にしている妻のヘジュは控えめな性格で、夫の仕事には一切関わらない、自分は国会議員の妻としては表にでないという約束を2人の間で交わしています。
そんな妻の考えを最大限に尊重する夫。2人の間には22歳の息子と中学2年の娘がいます。

そんないつもの日々が続くと思われたある日、事件が。息子の死です。
しかもクリーンな政治家としてはそのイメージに傷がつくトラブルまみれの子供の死。
ジュンドとヘジュらは、息子の荒れ果てた死の”背景”にショックを受け、打ちひしがれてしまいます。
そんな一家に更なる問題が。息子の彼女だと名乗る女性スビンが突然訪ねて来るのでした。そしてスビンから追い打ちをかけるように「妊娠している、泊めて欲しい」と…。ヘジュらはこの状況に絶句。
この日を境にジュンドとヘジュ、一家の家族として、そして政治家としての歯車が大きく狂い始めるのでした。

妻キム・ヘジュ
公人である夫の仕事とは一切関わらないと約束し、静かな生活を送っているヘジュ。
しかし彼女が世間の注目を避けるのには理由がありました。彼女の過去です。
実は高校時代に親友スンヒの兄から暴行を受けた経験がありました。
彼女は勇気を出して告発したものの、相手が自死したためヘジュが逆に周囲に責められることになり、身寄りのない故郷から逃げてソウルに1人やってきた過去があるヘジュ。
この一連の経験は大きなトラウマをヘジュに与え、夫含め周囲の人にも決して誰にも話せずにいました。
しかし、ヘジュの存在にスンヒが気付き、再び過去が掘り起こされることに。
ヘジュは自分の辛いトラウマが皆の知るところになり、苦しみ動揺するのでした。

「正しい政治の道」ジュンド
「正しい~」というのは、政治家ナム・ジュンドのモットーでもあります。
愛妻家で、妻との約束を守り尊重するという、家庭においても正しい姿勢を貫いています。
彼は国会議員としてその通りの道を邁進していますが、選挙前に報道されたスキャンダラスな息子の死から次第に、ナム・ジュンドという男性の「舵の取り方」が焦点となっていきます。

ネットフリックス 車輪 韓国ドラマ レビュー考察批評

ロッコ問題なのか?
私が根本的に疑問を感じたところが、この主題ともなるトロッコ問題です。
「5人と1人、どちらを犠牲にするべきか」という難しいジレンマです。
ジュンド視点
作品での大きなクライマックスとして、政治家として、選挙戦の目玉になる武器として、ナム・ジュンドは性犯罪に関する法案と通そうします。
しかし息子への疑惑、妻の過去、そして更にはジュンド自身の事件という3つ性暴力に関する事柄が明らかになり、その皮肉さとジレンマが描かれている訳です。
一見、法案vs家族の犠牲で、上手くトロッコ問題にはまりそうな設定になっています。ですが、そもそも2つの選択肢を考える際の”大きな要因”としてナム・ジュンドは「政治家としての功績、選挙選での勝利」という、”自身への利益”が強く選択の前の判断基準に関係していますので、これではトロッコ問題の本質である倫理感などの議論として当てはまらないと思います。
実際、ジュンドは政治家を続けるための選択肢ばかりを取っており、家族らの犠牲を”利用”してジレンマに悩むフリをしているだけで簡単に踏み台にしています。
最終的に、法案vs自分自身という形でブーメランとして戻ってくる訳ですが、彼の蔑むべき過去はジレンマとして扱う事でも何でもなく、ただの犯罪です。
また彼が家族らを犠牲にした理由は、世間のためという大義名分に聞こえますが単なる自己保身のための詭弁に過ぎません。
ジュンド自身への大きな皮肉にはなっていますが、今作のテーマとなるトロッコ問題は最早関係ありません。
へジュ視点
最終話になり、へジュがやっと自らの力で暴走トロッコの舵を取り始めたかと思われます。
ですがへジュには夫への大きな失望という強い理由がありますので、ジレンマの条件に当たりません。
彼女はトロッコの舵取りをしたのではなく、自身そして同じ女性でもある娘のために逃げずに立ち上がり、声を上げるということを長い時間をかけて”決断”したのだと思います。

もちろん脚本が「トロッコ問題のドラマです!」という設定で描かれていないのは重々承知していますし、話がテーマに100%沿う必要はありません。
ただ匂わせまくったトロッコ問題という大きなテーマを前提にし過ぎて、深さがあるように見せたミスリードというか…そのようなものを感じ、私はちょっとそれはどうかなとは思えました。
根本的にこの作品は”究極の選択とも言えるトロッコ問題”とは殆ど関係なく、話は結局のところ、”選択”に対する後悔やしっぺ返し、問題に対する気づきと「もう黙殺しない」という女性の強さであると感じます。
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そう考えると個人的には内容としては割とよくある、信頼に対する裏切りを題材にした愛憎ドラマだなとは思いました。
舞台も政治というよりは、家族問題のこじんまりした内輪話の愛憎ドラマという印象です。
ストーリーの山場としてはややショック題材ではありましたが、物語の軸、そしてエンディングへ続く「最終問題」としては、私はかなりの物足りなさを感じました。

あと、ここぞ!というシーンだけに登場する、都合の良すぎる適当なキャラ(特に娘ユンソとスンヒ)に閉口しましたが、メインとなるジュンドの心理描写や理由も徹底的に不足していて非常に不満でした。
特にジュンドは終盤の悪事がバレてからは、キャラの存在感がゼロになっていて、ドラマ的にこのような収拾の付け方で果たしていいのかと疑問に思いつつ…。
ということで、ちょっと濁した感にモヤモヤしました。
エンディングの着地点として当初目的からズレているのでは…?と、素人的にも何だか違う意味で考えさせられるものでした。
正直、ドラマとしてのカタストロフィさがなく、予想を大きく裏切られたドラマになり残念に思いました。(個人的な感想です)

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