ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ 愛と、利と (感想)

おすすめ度:65%
豚カツ度:100%
銀行支店度:100%
原題:사랑의 이해 / The Interest of Love (全16話)

愛と、利と 韓国ドラマ レビュー批評考察

立場の違う人々の関係性と恋愛の行方とは。2022年のロマンスドラマ。

あらすじ・キャスト

同じ銀行の支店で働くサンス(ユ・ヨンソクさん)とスヨン(ムン・ガヨン)。
支店の警備員ジョンヒョン(チョン・ガラムさん)もまた、スヨンに好意を抱いている1人だった。
他の支店でもスヨンの人気は有名だったが、彼女は常に他人と一線を引いているよう。
意を決してスヨンをデートに誘うサンス、そんな頃にミギョン(クム・セロクさん)が支店に移動してくるのだったが…。

感想

視聴後の疲労
フラストレーションをかなり感じ疲れますが、不思議な魅力のあるドラマでした。
最終回は、満足・諦念・不穏が混在した複雑な気持ちを得ましたが…。(後述します)
ヒューマンドラマとも考えられますが、それにしては物足りず、根本的にはロマンスものです。
気持ちのすれ違い”だけ”をメインに、男女4名の心情が交差する大変スローなストーリー。

人物描写は大変リアリティがあって、ここは本当に特筆して素晴らしかった部分だと思いました。(だからこそ、視聴していて疲れを感じる点でもあるかもしれません)
個人的に最も気に入ったところは、繰り返しのシーン対比と終わりなきゼロサム思考*参考:Wikipediaになってしまう皮肉さ=人というもの、という描写でした。
「自分は違う」という気持ちが、実は全くそうではないというブーメランのように他人に投げた感情が無限に己の元に戻るというストーリー構成は、どのような立場であっても非常に現実的で秀逸だと思います。

このドラマの設定として強く格差を描いているのもあって、持つ者/持たざる者の見えない線を、仕事、恋愛そして考え方そのものに浮き彫りにしています。
ただ、申し訳ないのですが”それだけ”なんですよね…。
身も蓋も無い言い方をすると「さっさと気持ちを伝えていれば」という点につきますので、全3話で終わってしまうネタです。
ここが大きな短所で、もどかしくてつまらない、イライラすると判断されるのも自然だと思います。

ドラマとしてはあまり強い山場がなく、陰鬱さがあって閉塞感もあります。
面白いドラマとは一切思いませんでしたが、興味を惹く点が多く私は毎週楽しみに視聴をしていました。
原作は同名の小説(韓国)です。

ゆるいネタバレありの感想と考察

ムン・ガヨンさんインスタグラムより

KCU銀行ヨンポ支店。ここで勤務するスヨンとサンスら。
この支店では、スヨンだけが正規採用ではありません。彼女は他の社員よりも成績も出して働いていましたが、理不尽さを感じる日々。
そんな彼女に密かに好意を抱いていたのが、サンスです。彼は勇気を出してスヨンを誘います。警告のように「曖昧な関係はいや」だと告げたスヨン
デートの約束の夜。サンスは残業などで、結果的に彼女との約束を”すっぽかす”ことになってしまいます。
スヨンは彼の”態度”に大いに失望したようでした。
サンスは謝罪と共に自分の気持ちを伝えますが、彼女は「チョンさんと付き合っている」と彼を真正面から拒否。急なスヨンの変化に唖然とするサンス。
このように当初お互いが好意を持ち合っていると思われた、スヨンとサンス。
この2人の間に銀行でガードマンとして勤務しているのチョン・ジョンヒョン、そして支店移動して来たサンスの大学後輩パク・ミギョンも加わり、4名の恋愛関係の”もつれスパイラル”が始まります。

各キャラの考察
この作品については具体的なストーリーの流れではなく、個人的に感じたキャラ考察などを書いてみます。
アン・スヨン
自らを含めた”人”を許すことができず、自分のフィルターを通した考えのみに囚われてしまっている女性。
不倫をした父、亡くなってしまった弟、”立場”が違うソンスへの恋…。
社会によって気持ちが挫かれる度に、まるで自己処罰のように自らの幸せを生贄に擦り減らして日々生きてしまう、ある意味ストイックで頑ななスヨン
「悪い女だ」
この悪い女というセリフは、面白いことにサンスとジョンヒョン両者から表現されているもの。
彼女は自分の中での”セオリー”に固執するタイプで、彼女なりの気遣いと計算が行動の中に常にあるのがわかります。しかし他人にはその意図が全くわかりません。(ミギョンとの対比)
独りよがりの行動にすぎず、時として周囲を無駄に振り回し、自爆までして大いに他人を傷つけている、「悪い女」。
スヨンは自分だけが嫌われればよいと思っていますが、嫌うことにも”痛み”が相手に発生していることに気が付いていません。
しかし父への誤解、誤算としてのソンスの行動により、スヨンは自分の中に固執していたそのセオリーは正しい訳ではなかったとやっと気付いたのではないでしょうか。
砂の城と石の壁のメタファー
印象的な海岸の砂の城は、このスヨンの”幸せ”を意味するメタファーだと考察します。
彼女は幸せを積み重ねて城を作っては自らが率先して崩し、その幸せが消える様子を当然の如く眺めていました。砂を選んでいたのも彼女自身です。
そんな彼女の城を何度追いやっても守ろうとする男性、それがサンスでした。彼にはスヨンでは壊せない、石の壁を持っている人。
4年後のスヨン、彼女が描いた海岸の絵。そこにはもう砂の城はありません。
ここで彼女の内面の成長をうかがい知ることができると思います。
スヨンはもう砂を幸せの基礎としていないのでした。崩れない強固なもの(=石の壁)で、彼女は幸せを重ねることにしたのだと思います。

愛と、利と 韓国ドラマ 評価レビュー

ハ・サンス
真面目で優しく育ちも良いと周囲に認識されているサンス。
実際彼はその通りの人なのですが、「いい人」のレッテルにサンス自身が囚われすぎているようにも感じました。
自分は裕福な家の出身ではない、本当はミギョンを好きになりきれなかった、スヨンの事が好き…、勇気を出して事実を明かすことを躊躇した結果、誰かを傷つけてしまうサンス。
ミギョンを傷つけてしまい、”自分は人とは違う”と信じていたものの、まるで同じであると痛感したサンスは己の未熟さを学びます。(ギョンピョルとの対比)
雪と植木鉢
サンスはスヨンのことが好きで、4年経過しても全く忘れられていません。その想いは確固たるものだと思います。
しかし、サンスがスヨンのことを「本当に」理解して好きなのかについては、常にひっかかる点がありました。
特に花の鉢と雪のセリフ(14話)にそれが表れているかなと思います。
雪を「美しいから好き」と言うサンス。スヨンに「美しいのが好き?」と再び問われたサンスは「みんなそうだよ」と答えます。
その後花の鉢をスヨンの部屋に置くのですがメモには「寂しそうだから」
その花を選んだ理由は「一番きれいな花だから」
これらの言葉を受け取ったスヨンの反応はいずれも、やや落胆しているようにも見えなくもありません。
”みんな”と同様、サンスも結局表面的にしかスヨンを理解していない、というメッセージとも取れます。(ジョンヒョンと同じ)
そんなサンスですが、4年後もあまり変わっていないと私は思います…。
後述しますが、そこがこのドラマの最終回のまさにモヤモヤする箇所かなと思いました。

チョン・ジョンヒョン
彼は警察官を目指して勉強中で、その繋ぎとして銀行で警備員として働いています。
彼には警官になるという強い夢があり、それに向かって努力するポジティブさで自分を卑下しない性格のよう。
しかし試験に不合格となり金銭的にも困窮し、スヨンの家に住まわせてもらうようになってからは、この性格が一転。
一転というか、元々あったプライドの高さが目立って醜く出てきたように思えました。
自分を保っていた軸が大きく揺らぎ、途端に自信も失うジョンヒョン。
彼はスヨンや両親など、近しい人へ自分の弱さを全てさらけ出すことは難しかったのでした。

またジョンヒョンのスヨンへの想いも、警官への夢と同様のものだとも感じました。綺麗なスヨン…、彼は彼女の内面は殆ど知りません。
急に”手に入った”夢のようなスヨンを、ジョンヒョンは持て余しているようにも思えました。
自分の弱さと夢への敗北に真正面から向かい合うことが、ジョンヒョンにとっては必要だったのでした。
ただ2番手としては脚本的に非常に”都合の良い”役柄で、今作ではギョンピョル(ムン・テユさん)の方が、役としてはずっと複雑で重かったと思います。

パク・ミギョン
裕福な家庭出身のミギョン。彼女は親の財力で現在の立場を享受していることに、まるで気付いていません。
自分の立場を利用して、他人の感情を操ったり牽制しようとするところが大いにあります。
一方彼女の母同様に、持つ者特有の無邪気さとあっけらかんとした可愛らしさがありました。しかしそれは、時に持たざる者を酷く傷つけるものでもあります。
ミギョンは自分をコントロールしようとする父親を嫌っていますが、彼女がサンスらに取った言動ははまさに父と同じことです。
コイン
「モノにしたい人」だったサンス、忘れたい過去のギョンピョル。しかし人の気持ちというものは、そう簡単に手に入ったり割り切ったりできる容易いものではなかったと、やっと知ります。
自らの力で参加し勝ち取ったと思い込んでいた椅子取りゲームの椅子は、奨学金と同様、誰かの場所を奪っていたことを学ぶのでした。
サンスを諦めなければならないと決めたミギョン、車の中の別れのシーンは素晴らしかったです。
人の気持ちは硬貨の裏表のように明確に説明がつくものではありません。コインを手放し、学んだ今後のミギョンの成長を予感させられました。

愛と、利と 韓国ドラマ レビュー批評考察

最終回の考察
エンディングですが、2人の関係はオープンエンドで描かれ、明確な結末はわかりません。
これが甘さと苦さが混じる複雑なシーンで、私は不満と満足を一気に感じて疲労しました。
気になる2人の今後ですが、個人的には6割ポジティブ:4割ネガティブミックスされた描写であるとは思えました。勝手に考察した理由として:
(ポジティブ 60%)
・運命
ソチーム長の「運命の人とは結ばれる」というセリフから、スヨンとサンスの切れない縁を予感させられます。
・花の鉢と店名
店の外に目立つように置いたサンスにもらった花。
KCU銀行と取引を続けているのもそうですが、スヨンはサンスに自分を見つけて欲しかったのだと思います。
また「明日の幸せ」という店の名は、彼女が自分の幸せを優先する決意(14話)が実現しつつあると分かります。
彼女が過去の自分の頑なな考えから解き放たれている、という明るさを感じます。
・豚カツデート
豚カツをついに食べに行くことになった2人。
ここは最初のデートのシチュエーションを思い出させるシーン。サンスは無理矢理に仕事を終わらせ、時間を間に合わせます。
2度と同じ過ちは繰り返さないという決意でしょう。2人の関係がもう一度初めから発展する可能性を秘めていると思います。
・上り坂
2人で店に向かった際の道は上り坂、これは今後の明るい未来を感じられます。
・会話
「もしあの時~」とスヨンお得意(?)の会話ですが、仮定の話としてもポジティブな内容のものが多いです。
・忘却の丘
「何も忘れていない」と告げるサンス。彼女への気持ちは何ら以前と変わっていない、という告白であるのは明確です。

(ネガティブ 40%)
砂の城の絵
サンスがスヨンのカフェで描いた絵には、彼女の象徴である砂の城がはっきりと存在。一方の彼女の絵にもう城はありません。
サンスはスヨンの脆い砂の城を守ってあげたいと今も考えていますが、スヨンにとってその砂の城はとっくに必要がないものでした。2人の間のズレとも見れます。
・喫煙
短いシーンでしたが、スヨンが画面に背を向けて喫煙をしています。一方のサンスは禁煙に成功。
”何か曇った、後ろめたさ”を感じさせられるシーンでした。
・理由
坂道でサンスに去った理由を問われた際「全部与えたから、全部もらったから」というスヨン
スヨンにとっては、もう全て”過去”になっていると考察できます。
・過去の回顧と現在
「~していたら」と過去を振り返るスヨン。回顧後スヨン「こんな想像しても、特別なことはない」と現実に振り戻します。
しかし再び今、サンスが彼女の正面に立ち「何も忘れていない」と気持ちを告げたにも関わらず、スヨンは小さく笑顔を作っただけ。
もう彼女の中では「もし素直に返事していたら」の関係性は、とっくに終わっているとも考察できます。
もしくは過去のスヨンと同様に彼女は根本的に変わっていない、とも思えました。
質問に質問で返答し全く何も回答しない女性、それがスヨン
また2人が付き合ったとしても、過去の繰り返しという気配も。
・サンスのナレーション
1話からこのドラマはサンスが所々でナレーションとして話しています。その際、殆ど過去形で語られています。
つまり、そもそもこの一連の話は過去の”終わった恋愛”であることが推測されます。

最終回解釈として6:4でハッピーエンドとしました。
が、個人的には2人はこの経験を糧としてそれぞれが別の道を歩んで欲しかったですし、そうハッキリ描いて欲しかったと願いました。
サンスとスヨンは、お互いが遅すぎる初恋だったのだと推測します。まだ2人共未練は大なり小なりありそうですが、ウジウジせずに今後頑張って欲しいなと思った次第です。

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ということで、かなり長々と書いた通り、つっこみながらもあれこれ考えて視聴。
正直観ていて「つれえ…」と感じるところも多かったです。
最終回が終わった後、とにかく終わって良かったなという感想に尽きました。疲労

自分の幸せ=他人の不幸(やその逆)と、生きていると考えてしまいがちです。
実際そのような状況の時も多いですが、その苦しくも葛藤もある醜い考え方にスポットライトを当てていて、上手く感情を描いているなと思いました。タイトルに「利」が入っているのも繋がっていて良く出来ていると感じました。
キャラクターの欠点を比較的多く見せた作品になっていて、ユニークで興味深いドラマでした。

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