ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国ドラマ 愛だと言って (感想)

おすすめ度:500%
宇宙度:100%
背負ったもの度:100%
原題:사랑이라 말해요 / Call It Love (全16話)

韓国ドラマ 愛だと言って 考察感想レビュー批評

復讐しようと近づいた相手、それは哀しい背中を持つ人だった。2023年のヒューマンラブストーリー。

あらすじ・キャスト

シム・ウジュ(イ・ソンギョンさん)は、姉ヘソン(キム・イェウォンさん)と弟ジグ(チャン・ソンボムさん)と3人で暮らしている。
父親は昔に愛人と家を出てしまい、それは3姉弟や母に影を落としているのだった。
そんなある日、住み慣れた家から退去しなければならない事態となる。父の愛人の仕業と理解したウジュは怒りを抑えられない。
親友のジュン(ソンジュンさん)だけに秘密を打ち明け、ドンジン(キム・ヨングァンさん)が経営する会社にアルバイトで入社するのだったが…。

感想

余白の美しさと優しさ
繊細で素晴らしい丁寧なドラマでした。
ラブストーリーとしてはシンプルで、いわばロミオ&ジュリエット的な好きになってはいけない相手に恋に落ちてしまうというものですが、こんなにも新鮮な作品になるんだと驚きと感動で胸を打たれました。
セリフで語らずとも感情の機微を確実に伝える繊細な演技とシーン構成で、大切に作り上げられたドラマでした。
スローで暗いと感じる方もいるかもしれませんが、ハッとさせられるセリフも多かったですし、興味が出た方は是非ご覧頂ければと思います。
派手さはありませんが、宝石のような純粋な美しさを持つ作品です。

映像の余白
今作は一貫して、静謐な余白を常に画面に残すという美意識のようなものが存在していました。
すぐに気付かれるかと思いますが、映像にはくすんだモーブピンクのフィルタが終始使われています。
フォトジェニックで、オシャレなシーン…それだけではなく、個人的には何となく視聴者との「不思議な優しい壁」、どこか緩衝材のような役割をこのフィルタが担っていると感じました。
父親の愛人への復讐という湿っぽさのある話のネタのためか、所々で観ていてストレスになりうるエピソードもありはします。しかしこのフィルタで、和らぎのようなような”優しさ”がありました。
一方でこのフィルタは、キャラクターたちの「心の曇り、もや」を表現していたのだと最終回では感じました。(後述します)
よくよく見ると、一律なピンク色だけではないように思えました。ここも彼らの心情とこのフィルタの色を丁寧に連動させてある気がします。
いずれにしても、この映像処理は作品に大きくプラスに働いていました。

また今作は、本当にロケーションが素敵でした。ここにも強い美意識がありました。
かなり拘って撮影場所を探したのではないかと、素人ながらに想像できました。
空間を多く残して人物を映すカットが多く、撮影場所(特に飲食店)も”含みを適度に持つ空白”を多く持つ場所を選ばれていて効果的でした。
ちなみに、途中ドンジンの会社に変化がありますが、オフィスを移動しなかったのもこの”余白”の意図を強く出すためだと思います。
セリフが多いドラマではありませんが、加えて「シーンの余白」から、想像以上に映像から伝わるものが多く、観ていて感動させられました。
この演出手法も詩的で映像に”行間”があって、大変良かった。

ゆるいネタバレありの感想と考察

キム・ヨングァンさんインスタグラム

いちょうの木のある、ソウルの一軒家。長女ヘソン、次女ウジュそして末っ子のジグは3人で暮らしています。
かつて両親と子供で家族として住んでいた訳ですが、ある日を境にその日々は崩れてしまいます。父親の浮気です。父は母親の友人でもあった愛人と、家庭を捨てて去っていったのでした。
現在もうとっくに成人した3人姉弟ですが、まだ子供たちが10代だった頃のこの事件は、彼らの進路や性格形成に大きな影響を与えました。
そんなある日、自分たちを捨てたあの父が亡くなったとウジュは知ります。
3人の中で”最も優しくない”ウジュ、彼女は今こそが「復讐」の時だと決意。葬儀場に乱入して周囲に”真実”をぶちまけ、家族を崩壊させたあの忌まわしい女性に大恥をかかせてやろうと行動します。
しかし、ウジュの復讐よりも更に大きな問題が。愛人であったヒジャが彼らの住む家を相続し、勝手に売却したことが発覚。
3人は住み慣れた家から、突然出て行かざるを得ない状況に。
シム家の人々は父の”愛人”ヒジャに10年以上経過した現在、再び狂わせられることに。
葬儀場で唯一ヒジャと対峙したウジュは怒りが収まらず、徹底的に復讐してやる時だと計画を立てるのでした。
ウジュは、ヒジャの一人息子ドンジンがイベント企画会社の社長であることを突き止め、その会社に雑用のアルバイトとして職を得ることに成功。
自分たちを苦しめたヒジャの息子ドンジンをターゲットとし、ドンジン(の会社)を破滅させてやろうと考えます。
しかし、ウジュはドンジンのことを知るにつれ、次第に彼に惹かれていくのでした。
(以下、キャラクターや気づいたメタファーについて、個人的な考察などを書きます)

ウジュについて
ある意味、正義感溢れるウジュ。父が出て行き、母は病に倒れ、10代の頃から家族の大黒柱のような存在にならなければ「ならなかった」彼女。
過去の交通事故の強烈な行動からも、自らを犠牲にしてでも相手に”思い知らせる”性分を持つウジュ。
しかしドンジンに復讐しようとしますが、彼も母親に悩まされ哀れな立場にいることを知って同情します。
彼女はそのストレートな物言いと、弟への公務員試験の強要でもわかりますが「こうあるべき」だという信念を持って歩んできたわけですが、それが時に彼女の未熟さそのものでもあること”復讐”を通じて痛感します。
ドンジンの「それが復讐に?」「ストレートに言うと、相手の傷つく顔を見なきゃいけない。その方が辛いから我慢している人もいる」の言葉がまさにそうだと思います。
後ろ向きに歩くように感じるのはなぜか…、ウジュは己の間違いと愚かさに気付きます。

ドンジンについて
大きく傷ついた恋人ミニョンとの別れ。そしてウジュのこと。母の問題。
ここでドンジンという男性について、象徴的だったのが「知らないフリ」です。
彼はひどい母親の元で何度も傷つき心を閉ざし、この”フリ”が体に染みついているのですが、ドンジンの問題はまさにこの点。
傍観、受け身、黙認…これらの態度は、時に第三者からは彼も”母親と同類”と見なされます。
ドンジンは母親と「違っていること」に安心したのに、母を黙殺している彼の姿勢は、結果的に母親を支持しているのと同じとなるのは皮肉なことです。
ウジュを好きになって愛を得て、見て見ぬふりをしては謝罪し疲弊していた受動的な態度の過去の自分に気付きます。
知らないフリをするのではなく、時には「心のままに」自ら行動することの必要性を学んでいきます。
母に「それでも生きなきゃ」と告げたのは、彼の歩んできた人生そのものだと思います。

韓ドラ 愛だと言って 考察レビュー

ヘソンについて
銀行勤務の長女ヘソンは、お気楽で短絡的。まるで最も年下のように振る舞い、時には自分勝手な女性として当初は描かれています。
恋愛の傷を次の恋で癒すタイプのヘソンは、手近な年下男性スホと付き合うことに。
結局別れますが、大きな理由として彼のデリカシーの欠落かと思われます。スホの態度はもちろん悪かったですが、彼は謝罪もしましたしヘソンの病気を知った際に偏見の目を持ったり、彼女を拒否したワケではありません。
個人的にはヘソンが今まで「無視していた本来の自分の問題」がこのスホという男性の存在そのもの、体現化されたメタファーだったようにも思えました。
スホのヘソンに対するセリフは彼女の本質を突いたものばかり。
彼の言葉を聞いている時、賞賛の言葉であってもヘソンは妙に居心地が悪いような表情をしていたように見えました。自分に向き合うのが辛かったのでは。
彼女は決して勝手な人ではなく、自身をも知らず知らずに偽っていたような気がします。
気丈な妹の存在もあり、ヘソンは”問題”に気付かないフリをして「居心地のよいポジション」を長年保っていました。
しかし既婚者との関係、ウジュとドンジン、ジュンとウジュの強固な信頼...。
今まで目を背けていた事実が次々と露見し、彼女はやっと自身の”ぬるさ”=問題点に正面から向き合い、恥じて気付いたのだと思います。(彼女の抱えた病は、まさにその”気付き”の暗喩だと考察します)
以降、ヘソンは”長女”となります。演じるイェウォンさんの微妙な態度の違いの演技は素晴らしかった。

ジュンについて
ウジュと10代の頃から親友だったジュン。彼女を、そしてシム家をサポートしています。ジュンはこの”関係”に大いに満足していたのです。
ウジュが”復讐”を始め、その過程でドンジンを好きになっていくことにいち早く気が付きます。
当初は単純にジュンもウジュが好きなのであろうと簡単に考えていたのですが、途中から彼もまたウジュの”宇宙”に存在する惑星のような人なのだと私は思いました。
宇宙がどこかに行ってしまうことは、自分の存在の場を失うことでもあります。
ジュンはウジュらにとって、どこかいつも「傍観者」でもありました。
「マッチ箱のような薬局」に安寧を覚え、今の場所から動かず受動的。ジュンとドンジンのある意味で共通点でもあると思います。
しかし、ヘソンが気持ちを伝えて来たことでジュンは大きく動揺します。”自らの平和”を揺るがす判断を迫られるジュン。
ヘソンの告白は、彼にとって自らの感情で箱の中から一歩外に踏み出すきっかけになるのでした。

愛だと言って 韓国ドラマ 感想メタファー考察

2人のカバンのメタファー

  • ドンジンのバックパック
    個人的に最初に気になったのが、ドンジンの黒いバックパック。持ち手の部分は擦り切れており明らかに古いものです。
    ドンジンという人間の半生が明らかになるに従って、このカバンが示したかったであろう意図が考察できます。
    これは、彼が人生の中でずっと背負ってきた「他人への罪悪感」「自分の母親」のメタファーだと思います。
    ドンジンは母が起こしてきた数々のトラブルに振り回されて消耗し、それでもなお断ち切れない呪いのような母親を常に背負って生きてきたのです。
    だからこそ、「孤独でむなしそうな、あの背中」なのだと思います。
    決して逃れられない十字架=カバンを背負っていたドンジン。
  • ウジュのバッグ
    一方、ウジュは斜め掛けの黒いバッグを愛用していますが、彼女は常に不安げに、そして大切そうにストラップの部分を握っていることが多かった。
    ウジュのカバンは彼女が「家族を常に抱えていること」を表現していると考えます。
    生まれたときからまるで任務のように身体から離れないよう注意し、その手綱を無意識に握っている仕草のようにも。
    ウジュは家族を支えることは、彼女の名前ウジュ(宇宙)やお坊さんからの言葉から、それは彼女の宿命だったのです。
  • 背負ったウジュのバッグ
    大きく動きがあったのが12-13話。ウジュは職場にカバンを残したままにします。気付いたドンジンは、ウジュのバッグを「自分のバックパックに入れて」運んでいました。
    ここでドンジンは自分が背負っていた”罪”とは根本的に違う別のもの、「ウジュの重荷」を始めて背負ったことになります。
    個人的に、このバッグについてはこの作品らしい素敵なメタファーだなと思いました。最終回にはこの2人のバッグについて、また違ったシーンが見られました。

最終回の考察
ドンジンとウジュの”許されない恋”が家族に知られ、ウジュは別れなければ「なりません」。2人の”最後の日”にウジュが誘ったのは、彼の好きな場所。
これは、彼のかつての辛い別れと対比させた、ウジュからの最大の”メッセージ”ではなかったかと思いました。
ドンジンは彼女から受け取ったその愛で、「楽しく生き」ながらウジュを”待つ”ことを暗に示していたと考えます。また別れ際の2人の
ドンジンがジグにギターをプレゼントした理由の一つは、ウジュとの関係性をジグを通じて消したくなかったからだと思います。
2人は「つらい事があっても振り返ると一瞬」になった頃の、”偶然”を常に待ち侘びていたと思います。そしてジグはそのタイミングを十分理解していたのでしょう。
ドンジンはあの場所でウジュに出会えることを知っていたはず。だからこその花束だと思います。

    • 白っぽい服
      15話で遺言状を手に入れた後、ヘソンとウジュ、ジュン3人がアイボリー系の服で統一されていましたが、彼らの”復讐”が一旦終わった真っ新な、リセットされたような意図を感じました。
    • ドンジンの「荷物」
      最終話16話で、ドンジンがかつての会社を訪れた際。皆はドンジンの退職を”自由人”と祝います。
      これは、彼が背負ってきた”もの”から晴れて解き放たれたことを意味しているのでしょう。このシーン以降、もうドンジンの古く重そうなバックパックは出て来ません。
    • ウジュのバッグ
      エンディング残り8分あたり、ウジュとドンジンはそれぞれジグのライブに向かいます。
      この時にやっとウジュはあの黒いバッグではなく、茶色の軽やかなものを身につけています。このシーンの前に、姉から家族の気持ちの整理がついたことを告げられているウジュ。
      彼女が背負ってきた荷物が減ってきたのだと思います。(斜め掛けをしているので、ドンジンのように完全に解放されたと見れないところが上手いと思います。)
    • 2人の衣装
      特にドンジンは明確ですが、今までの黒っぽい服装から強い変化がみられます。ウジュのややフェミニンな服を着用しています。
    • 映像フィルター
      2人がジグのライブに出かけるあたりで、フィルターがかなり薄くなっていることに気が付きました。2人が背負ってきたものが消え、明るい空が。
      2人の「これから」が示されているポジティブなエンディングでした。

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とうことで、毎週待ちわびて視聴していたので、終わってしまった今は何だか寂しい気分です。
ミニマムな演出の中に美しくも悲しい繊細な感情の変化が大きく描かれていて、胸を打つ…。文句なしで素晴らしくて良質なドラマだったと私は思いました。
オープニングの映像のクレヨンで黒く塗りつぶした絵をスクラッチするとカラフルな「幸せ」が隠れている、この冒頭の表現が全てだと思います。
隅から隅までが丁寧に描かれていて大好きな作品でした、おすすめです。

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