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韓国映画 ベイビー・ブローカー (感想)

おすすめ度:80%
つながり度:100%
車度:100%
原題:브로커 / Broker (129分)

ベイビー・ブローカー 韓国映画 感想考察レビュー

赤ちゃんポストに預けられた子供をめぐる、ヒューマンストーリー。2022年公開作品。

あらすじ・キャスト

人気のない夜、ソヨン(IU/イ・ジウンさん)は赤ちゃんと共に養護施設に付随する赤ちゃんポストの前に向かっていた。
赤ちゃんポストの中に入れられた子は、待っていたようにサンヒョン(ソン・ガンホさん)とドンス(カン・ドンウォンさん)が連れ去ってしまう。しかしその様子を見ていたのが刑事のスジンペ・ドゥナさん)だった。
翌朝、施設に再びソヨンが我が子を探しにやって来るが…。

感想

じんわりと良かったです。
シーンの1つ1つが美しくて、ストーリーとして押しつけがましくなく余白がありました。
全体的に見るとちょっと都合が良いと思う展開ではあるのですが、この作品はリアリスティックな点を追及している訳ではないと思いますので、小説を読んでいる感覚に似ていて「行間を楽しめる」映画だったと思います。
ご存じの通り、今作の監督は日本の是枝裕和さんです。
映画タイトル通り、赤ちゃんポストに預けられた子供を”ブローカー”として影で売る2人を中心に、家族とは社会とはをテーマに描かれたストーリー。
テーマとしても正解という答えは出ないであろう困難な社会問題ですが、その幾重にも重なる問題点と背景が丁寧に語られていたので、時に矛盾も抱えながら「”制度”なんかでは結局簡単に解決しない」という厳しい現実も考えさせられました。
しかしながらそんな厳しい現実の中でも、他人との関係性においてある種のミラクルのような(だからこそ”都合が良く進む”話なのだと思います)希望や、人々が持つ本質的な美しさや優しさがしっかり表現されていて、社会という集団がそのような”人間の良心”のような柔らかく見えないもので地盤が支えられているとわかります。
その点を作品として描きたかったのかなと考えてしまいました。個人的には視聴していて私はそこに最も胸を打たれました。美しかったです。

俳優陣も全員がそれぞれ素晴らしい演技で、その点に文句を付ける方はおられないのではないでしょうか。
話の展開はロードムービー的な構成でもあったのですが、緊迫感などはありません。
刺激のある山場のようなシーンはあまりありませんので、その部分では物足りなさを感じる方もいるかもしれません。

ゆるいネタバレありの感想

雑誌Cine21インスタグラムより

児童保護施設に併設された赤ちゃんポスト
雨の日の夜、ソヨンはひっそりと赤ちゃんを抱きそのポストの前に佇みます。決めかねたようにポストの前に赤ちゃんを”置く”ソヨン。
そんな一部始終を密かに見ている女性刑事のスジンは、女性が去った後に乳児を確かめるようにポストの中に入れます。まるで”何かを”スタートさせるように。
スジンが待っていたのは、ポストに預けられた赤ちゃんをブローカーとして「利用」している男2名の”仕事”だったのです。
彼女はこのブローカー2人の”売りさばく”を現場を押さえて現行犯逮捕しようと、彼らの仕事が始まるのをじっと待ち構えていたのでした。
ブローカーとして働くのはクリーニング店が本業のサンヒョンと、施設で働くドンス。
様々な理由で子供を欲しがる人はいて、そんな人々にポストに預けられた赤ちゃんを彼らに「紹介」している2人。
この夜もサンヒョンとドンスは、慣れた手つきで乳児を一度クリーニング店連れ帰るのでした。
しかし今回はいつもと異なる点が。翌日、子供を預けた母親が再び施設を訪れて来たのです。大ごとになるのを避けたかったドンスは、その母親のソヨンをサンヒョンの元に連れていくことに。
ドンスとサンヒョンは自分たちの仕事を、「養父母を探す、善意の仲介」だともっともらしくソヨンに説明するのでした。
ここは悪びれた様子が無いようにも思えましたし、適当に言い負かしたようにも、開き直ったようにもそして本当に2人が善意だと信じているようにも感じた、短いですがなんだか不思議なシーンでした。
ソヨンは100%同意したとも思えませんでしたが思ところもあったのでしょう、手数料の分け前も2人に約束させ、その実際の取引の現場に同行することになります。
こうしてサンヒョンとドンス、ソヨンと赤ちゃんウソンという4人は、取引相手となる養父母となる人物に会いに行くことに。しかし、態度の悪い相手にソヨンは怒って一方的に取引中止を言いつけるのでした。
こうして、この4人の不自然だけれども、成り行きとしては自然で生暖かい繋がりが彼らの中に生まれていきます。

印象に残ったシーン
「1人で全部やる必要はない」
途中赤ん坊が原因不明の熱を出し、3人は心配であたふたします。
ぽつりとお礼を言うソヨンにサンヒョンがこの言葉をかけるのですが、彼は彼女を決しておもんぱかってかけた言葉では無かったと思います。
ごく自然にそう言ったように感じたのですが、これが大変良かったなと思いました。
ソヨンにはその「全部やる必要はなかった」ことが全て彼女の背中にのしかかっていた結果、ポストという選択肢しか浮かばなかったのではないかと感じ胸が痛みました。(しかし彼女が出した答えもまた、決して間違った選択肢ではないことは明白です)
問題として全てに正解はないけれども、「もし~だったら」という部分が社会として欠けているというメッセージのようにも思えました。
ウソンの世話も、みんながそれぞれ自然に分担して協力し合っていて、不思議な距離感が生まれていました。

トンネルのシーン
途中彼らは慣れたクリーニング店の古い車から、電車で移動をします。
その途中でソヨンとサンヒョンがぽつぽつと話すシーンがありましたが、個人的にはこのシーンが最も印象に残りました。
トンネルで暗くなり所々出で2人の表情が(視聴者側にも)全く見えないのですが、これが本当に本当に素晴らしくて胸に来ました。
ソヨンはここで「もしもっと早く出会っていたら」と小さな声で呟きます。そんな彼女にサンヒョンは「まだ手遅れじゃないよ」と独り言のように話すのですが、彼女が聴こえたかどうかは定かではありません。
これは我々に向けての強いメッセージのようでもあるなと感じました。この”手遅れ”ではないという気持ちは、ラストシーンでも象徴的であったと思います。

他にも、カン・ドンウォンさんの綺麗な手が印象的な観覧者のシーンなどは特に美しく、心に残りました。
一面だけ見て悪と判断し決めつけるのは簡単ではありますが、その下には数々の埋もれている別の問題が地層のように存在しているということを、この作品を通じて考えさせられた気がしました。
ゆったりとした雰囲気の中に確かな温もりがあって、良い映画だったなと思いました。

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