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韓国映画 タクシー運転手 約束は海を越えて (感想)

おすすめ度:85%
食堂のおにぎり度:100%
タクシー度:100%
原題:택시운전사(タクシー運転手)137分

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平凡なタクシー運転手がデモの起こる光州へ向かうが、想像を絶する状況だった…。2017年公開のヒューマンストーリー。

 あらすじ・キャスト

1980年の韓国。光州市では学生や市民を中心として大規模デモが起こっていた。
一方そんな光州でのデモの事はどこか他人事だった、ソウルでタクシー運転手をしているマンソプ(ソン・ガンホさん)。
そんなある日、ドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマンさん)を乗客として乗せることに。ピーターはデモが起こっている光州まで行くことを要求していたのだった。高額の乗車賃に目がくらみ、光州へ行くことを快諾するマンソプだったが、街のただならぬ雰囲気に驚く…。

感想

1980年の韓国・光州事件での実話を基にしたストーリー。
事実を世界に報道しようとする外国人ジャーナリストと、ひょんなことから彼を手助けしてしまう、ごく平凡だったタクシー運転手のお話。
お話の展開として、脚色はあるにしろ非常にドラマチックでした。実際の大規模なデモと民衆弾圧を描いていて重いテーマですが、そんな状況でも人々の生活の中でのささやかな優しさや笑いも上手く描かれていました。
注)光州事件についてはWikipedia:光州事件をご参照ください。

主人公のタクシー運転手を演じる、ソン・ガンホさんの演技が、とにかくズバ抜けていて、表情だけの感情表現や、体の姿勢から気持ちを感じ取れる演技がとにかく素晴らしかったです。今更ですが、さすが本当にすごい俳優さんだなと思いました。

お金目当てでお気楽に光州までのお客さんを引き受けたマンソプが、光州に入ってからの空気の違いを感じた部分。
何の罪もない、声を上げただけの普通の人たちが次々と倒れていくその様を目の当たりにしたときのマンソプ。
加えて、当初自分の事だけしか考えていなかったマンソプが、次第に別の視点を持ち始めるなど、このあたりの対比させる演出とソン・ガンホさんの演技が大変上手く合っていて、非常に見ごたえがありました。

ゆるいネタバレありの感想

リュ・ジュンヨルさんインスタグラムより

妻を亡くし一人娘を育てるタクシー運転手のキム・マンソプ(ソン・ガンホさん)。
お金に困っていたのもあり、ドイツ人ジャーナリストのピーターを光州まで乗せていくという依頼に、高額の乗車賃目当てで飛びつきます。
英語が話せる、と言いながらもあまり話せないマンソプ。とりあえず連れて行けば勝ち、とばかりに気楽に走り出します。
が、光州では既に検問が行われており雰囲気が一転。ソウルとは全く違った風景が広がっていました。
困惑するマンソプでしたが、デモに参加しようとする学生集団に出会います。英語が話せる学生、ジェシク(リュ・ジュンヨルさん)と出会い、ピーターは彼らに取材をし始めます。

マンソプは街の空気感を敏感に感じながら、とにかく面倒は避けたいと、さっさとソウルに戻ろうとします。
ですが、その途中とあるきっかけで病院に寄った際、軍が一般市民に対して弾圧をしているという恐ろしい現状を知り、考えが少し変わっていきます。

ソウルでたった1人、父の帰りを待っているであろう娘が心配でたまらないマンソプでしたが、車の故障もあって一晩光州で過ごすことになります。
他人であるマンソプや外国人のピーターを明るく迎えてくれる、光州の人達。緊張感漂う中で、つかの間の笑顔が戻る一同。

しかし、激しい爆発音がし、ピーターやジェシクは再び街へ向かいます。
しょうがなくマンソプも一緒に同行しますが、途中ジェシクが軍人に捕まってしまいます。英語で「この事件を世界にしらせてくれ」とピーターに軍に知られぬよう伝え、ジェシクは帰らぬ人となってしまいました。

一夜明けた朝、マンソプはソウルへ戻ることに。
途中、光州を出て隣の市に入り、娘の無事を確認し、安堵しながら食事を食べるマンソプ。光州以外の人々は、あの場所で何が起こっているのか、全く知りません。そしてそれは1日前の自分でした。(このシーンのガンホさんの表情が、本当に本当に良かったです!!)

複雑な2つの相反した気持ちを抱きながら、マンソプは再び光州へ戻ることを決意します。ピーターと合流したマンソプ。2人は惨状に悲観していましたが、現状を世界に伝えることを決意し、ソウルへ(空港へ)を目指します…。
ソウルと光州との温度差や日常と非日常(市民への弾圧)その表裏一体の間にいるのがマンソプ、という描写がとても興味深かったです。

ごく普通の市民であったマンソプが、自分の意志ではなく非日常に巻き込まれてしまいます。他人事だと思っていた惨状を知り、逃げ出そうとします。ですが、最終的には自らの意思で再び現場に戻ります。
この事件は、マンソプやジェシクのような、善人の一般人が最大の被害者であり、
主役だったものでした。
この事件は40年も前の話でありながら、現在でも世界で似たような事が発生しているというのが、あまりにも皮肉ではあります。

このドイツ人記者とタクシー運転手のお話自体が実話ということで、視聴後はとてもビックリしました。脚本や演出は脚色されているとはいえ、すごい”映画”のようなお話だなと思いました。

個人的に一番胸に刺さったシーンですが、光州から戻ったマンソプが食堂で人々の会話を聞きながら1人食べ、自分を納得させるように娘にお土産に買った靴を見るエピソード展開。
あの一連のシーンは本当にソン・ガンホさんの演技が光っていて、本当に素晴らしかったです!
また、ジェシクを演じる、リュ・ジュンヨルさんですが、個人的に大好きな俳優さんです。役もデモをしながらも、中身は若く純粋でどこか気楽なごく普通の学生だったという二重の部分が雰囲気に似合っていて大変良かったと思いました。

ごく平凡な一般人が犠牲となり、またヒーローともなった面を上手く描いたストーリーでした。
暗い題材のお話ではありましたが、感動しましたし、市民それぞれ一人ひとりの想いや生活が印象に残った作品でした。胸に残る、非常に良かった映画です。

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