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韓国映画 詩人の恋 (感想)

おすすめ度:80%
愛とは度:100%
済州島度:100%
原題:시인의 사랑(詩人の恋)109分

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うだつの上がらない詩人男性と妻、そしてドーナツ店の青年。心を揺れ動かすものとは。2017年公開のヒューマン系作品。

 あらすじ・キャスト

済州島で妻ガンスン(チョン・ヘジンさん)と暮らす、売れない詩人のテッキ(ヤン・イクチュンさん)。
最近妻が妊娠を望みはじめたため、テッキは気乗りしないものの、病院に行ったりして努力をする。
そんなある日、新しく開店したドーナツ店で働くセユン(チョン・ガラムさん)を見かけ、
心がゆれ動かされるテッキ。
家庭問題もあるセユンを、親切心もあって助けようとするテッキだが…。

感想

妻帯者の中年の詩人の男性。鬱屈とした生活にある日突然現れた若い男性に、心を奪われてしまうという作品。
危うさをはらんだ青年を「愛して」しまう詩人ですが、その愛とは一体…?
詩人としてのインスピレーションを与えてくれるミューズのような存在なのか、同性としての愛なのか、同情なのか、親子愛のようなのか…。そのどれもが当てはまるような、「愛」をぼんやりと捉えながらも、芯があったお話でした。

人間の感情、ことに愛情というものの説明がつかない不思議さと、それを持ち合わせている本人でさえ、時にその気持ちを真に理解できず持て余してしまうという、その”ゆらぎ”を、静かに描いた素敵な映画です。

売れない詩人のテッキ、中年でお腹が気になっている年齢の男性です。地味な生活を送っていましたが、妻に子供が欲しいと言われます。
子供を持つことに気乗りしないのもあるし、詩を含めた仕事が上手く行っていないのもあり、鬱々とした日々を過ごすテッキ。
そんなある日、最近できたドーナツ店で働くセユンという、ある若い男性に目を奪われます。

セユンは若く有望な男性…という訳ではなく、父は家で病気のため寝たきり、母とは折り合いが悪く、金銭的に余裕がない状態。学校にも通わず、あまり良い友達もいないようです。

そんなテッキとセユン、そして妻…彼らの関係を静かに、そして彼らの関係をジャッジするわけでもなく、淡々と描かれたお話でした。

済州島が舞台となっていて、自然が大変美しく映し出されていましたが、一方で”島”という閉塞感や、強い仲間意識、どこにも行けないという独特の空気感も上手く映像に取り入れられているようでした。
テッキやセユンなど上手く生きることができない不器用なタイプには、その中では疎外感を感じてしまう雰囲気も一面として描かれていて、上手いなあと思いました。

ゆるいネタバレありの感想

チョン・ガラムさんマネジメントSOOPインスタグラムアカウントより

詩人で年齢差のある男性同士ということで、ランボーヴェルレーヌを想像させました。
ある日突然彼の人生に出現した、セユンという光のような存在を見つけて、手を触れたくなってしまうテッキ。
テッキの高揚感が、ドーナツの甘さ(見た目の)と上手くシーンに合っていて、視聴していて彼の嬉しさとテンションの高さが伝わり、面白い演出だなと思いました。

テッキはセユンにのめり込んでいきます。セリフにもありましたが、子供っぽさがあり、性急さがあるテッキ。
これは良い面もありますが、時に自分勝手になってしまいます。また、単に男性を愛する自分にひたっているような雰囲気の時もありました。

彼自身でセユンに対する想いを扱いきれていない面も描かれていて、ここは興味深かったです。
自身のセクシャリティに悩んだりもしますが、答えはでません。つまり、明確な同性愛という描き方は決してしていません。
「セユンと2人で一体どうしたいのか」という質問には、おそらく彼は答えられないと思います。
そしてセユン自身もテッキのことを、本心ではどう思っているのかは謎ではあります。
お金だけが目的だったのかもしれませんし、家庭環境をさらけだして相談相手が欲しかっただけかもしれません。明確だったのは、愛情不足でした。

ここの描き方が非常に巧妙で、本人2人ふくめ、決してジャッジできない感情がそこには存在するのだなという部分がとても印象的でした。
人の心の不確かさや、ひとえに愛というものを判断できないという複雑さを上手く伝わってきましたし、感心しました。
テッキの妻もそれを理解していたようにも思えました。テッキよりももっと現実を見ている妻なのもあり、またテッキのよき理解者でもあったと思います。(とはいえ、どう考えても振り回されていたのはテッキの妻であり、可哀想でした)

テッキとセユンは精神的にも身体的にも愛し合っていた!という訳でも決してありません。性的な対象だけではなく、愛情とは何か、というのを全面的に問いかけている作品でした。
テッキは妻の事も、もちろん愛していたと思います。
しかし、それは妻の求める愛や世間一般の考える愛とは、また違ったものだと思います。

エンディングも、妻、テッキ、セユンの3人共に愛に対して答えがでていないからこそ、この結末になったというリアリティがありました。まだ彼らはお互い愛し続けているからこそ、という部分もあって良かったです。

なかなか感想として言葉にあらわしにくい映画でしたが、人の愛情の深さや言葉で表現できないゆらいだ部分。自分でも扱いにくい気持ち。
そしてその複雑さを押しつけがましくなく、あるがままに表現した作品でした。愛情とは…と考えてしまう、視聴後に心に残った映画でした。
主演のヤン・イクチュンさんの演技もとにかく良かったし、キャスティングと俳優さんの演技が全員本当に素晴らしかったです。

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