ドラマや映画の感想を書いてみるブログ

観た韓国ドラマや映画の感想を書いてみます。誰かの参考にでもなれば…。

韓国映画 バーニング 劇場版 (感想)

おすすめ度:83% 
何が本当なのか度:100%
ビニールハウス度:100%
原題:버닝 148分

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村上春樹氏の短編小説を原作とし、ストーリーをアレンジした作品。男女3人のミステリー・ヒューマン系作品。

 あらすじ・キャスト

小説家を目指しているものの、その日暮らしのアルバイトをしているジョンス(ユ・アインさん)は、ある日偶然、幼馴染のヘミ(チョン・ジョンソさん)と出会う。
海外旅行に行くので、その間彼女の飼い猫に餌を与えて欲しいとヘミから頼まれ、了承するジョンス。
しかし猫の姿は一切見ることがなかった。

ヘミは謎の男性ベン(スティーブン・ユァンさん)と一緒に帰国し、ジョンスと共に3人は親交を深めてゆく。
そんなある夜、ベンから彼の秘密を打ち明けられるジョンスだが・・・。

感想

村上春樹氏の短編小説『納屋を焼く』を原作とした映画。
村上氏がこの不思議な短編小説に関して明確な結論や意図を一切述べていないのに対し、この映画では原作の「色々な考察ができる」部分から比較的1つの筋道(解釈)にクローズアップして描かれてように個人的に思えました。

そこが一番原作と異なる点だと感じました。が、個人的にはあまり原作小説と映像作品を比較するのはナンセンスかなと思います。
この作品はこの作品で、十分面白かったですし、かなり興味深かったです。

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メインの出演者3名です。
ジョンス役としてユ・アインさん:
小説家を目指す若者役で、日雇いバイトのような仕事をしながら暮らしている。
最初ユ・アインさんの雰囲気と小説家を目指す青年役が少し合わない感じがしました。
しかし観ているうちに、田舎の風景と”垢ぬけなさ”がとてもしっくり来て、良かったと思いました。(もちろん演技の垢ぬけなさ、です)
いつも口が半開きになっていたり、歩き方の姿勢の悪さなど、ユ・アインさんの演技かなり良かったです。

また性的なシーンも多数ありますが、ユ・アインさんですと、何となく「普通」に観てしまえるという部分もあって良かった(?)です。
いやらしくなりすぎず、オシャレ過ぎず…という、ちょうど良いリアリティがありました。

ヘミ役のチョン・ジョンソさん:
『ザ・コール』を最初に観ていて、ジョンソさんの演技に度肝を抜かれたのですが、今作がなんとデビュー作だったんですね!
ヘミの”何を考えているかわからない”危うい雰囲気にピッタリでした。
あと、ちょっと怖いところ…。

新人とは思えない…何でしょうか、この作品から既に肝が据わった演技というか、画面にジョンソさんが映っていると、何となく目で追ってしまうタイプの女優さんです。
これからもっともっと活躍されそうですね。

ベン役のスティーブン・ユァンさん:
不思議な雰囲気で大金持ちの謎の青年のベン役。
つかみどころがなく、謎に包まれている人物。そんなよくわからない役柄ですが、スティーブンさんの雰囲気は合っていました。
が、役柄的にのらりくらりしているというか、演技感を強く出さない必要もあった役だと感じましたので、スティーブンさんの雰囲気がベンに合っているな…というぐらいで、演技に対する強い印象は残念ながらそれほど受けませんでした。(すみません)

ネタバレありの感想・考察・推測

ユ・アインさんインスタグラムアカウントより

街中でアルバイトをしていたジョンス(ユ・アインさん)は偶然、ヘミ(チョン・ジョンソさん)に会います。
ヘミはジョンスにすぐに気付きますが、ジョンスは声をかけられてもわかりませんでした。
ヘミは「整形したから」と言い、戸惑う様子のジョンスに話を続けます。

仕事終わりに会った2人、ヘミはジョンスにアフリカに旅行に行くので、飼い猫に餌を(ヘミの家へ)与えに来て欲しいと頼み、ジョンスはOKします。
ヘミの住むアパートへ下見もかねて来たジョンス。そしてヘミからジョンスを誘い、2人はセックスをします。

ヘミが不在中、猫に餌を与えにジョンスはヘミの家に行きますが、結局下見の日も含めて一度も猫の姿を見る事はありませんでした。

アフリカから帰ってきたヘミ。そして空港で迎えたジョンス。しかし、ヘミの傍らにベン(スティーブン・ユァンさん)がいます。困惑するジョンス。
ベンは若いながらも大金持ちですが、職業は不詳でハッキリとは答えません。

ベンはヘミをかなり気に入っているようで、その後も彼の取り巻きのような友達のパーティにヘミを連れていったりと、地味で貧乏なジョンスとは完全に世界が違っていました。
しかし時折ベンはヘミに一切興味がなさそうなそぶりも見せます。

ある日、ジョンスの家(田舎の実家に1人暮らし)にヘミとベンがやってきます。
夕暮れ時の酔った3人、ベンはジョンスに静かに不思議な告白をします。

「ビニールハウスを焼くのが趣味だ」と…。

そして今回ジョンスの家に来たのも、この趣味の”下見”を兼ねている、と。
ジョンスの住んでいる場所の近くのビニールハウスを焼く予定のようです。

ジョンスはそれを聞いてから、近所のビニールハウスをチェックし回りますが、どのビニールハウスも焼け落ちた気配が皆無。
そして同時進行として、ヘミと連絡が取れなくなります。

ビニールハウスが気になって仕方がないジョンスは、ベンを半ばストーキングします。
遂に本人にビニールハウスを焼いたのかどうか問いただします。
「もちろん焼いた」と答えるベンに、ジョンスは「そんなハズがない」と唖然とします。

ここの解釈ですが、私はベンの「ビニールハウスを焼く」趣味は、(ほぼ確実に)暗に殺人を仄めかしていると考察しました。
この部分が原作とは一番異なったこの映画の解釈筋だと思います。

「存在していなかったように消せるんです」
「警察は気にも留めません」
「僕に焼かれるのを待っている気がする」

連絡がつかなくなったヘミをジョンスは探し回ります。
大家に頼んでヘミのアパートに入りますが、部屋は綺麗に片付いていて、もちろん猫もいません。いつも散らかっていたヘミの部屋を思い出し、不思議に思うジョンス。

「ヘミは煙のように消えました」と言うベン。

その後、ベンの部屋に入る機会を得るジョンス。ベンは既に別のガールフレンドがいるようです。
そんなベンの家でヘミの持ち物を見つけるジョンス…。
そして、猫も。

恐らく、ベンは身寄りがなかったり、家族と疎遠でお金のない若い女性を”ビニールハウス”だと表現し、たびたび殺害していると考えられるように描写されていました。
そしてその戦利品として、彼女らが身に着けていた小さな物を集めている、と。ただ、そんな戦利品を他人が簡単に見れる場所に置いておくかと不思議だったのです。

しかし、ベン自身も既に”ビニールハウス”のひとつであり、誰かに、そして”彼女”らと同様にできればあまり身寄りがない、ジョンスのような人間に自分を焼いて欲しかったのかもしれません。
だからこそ、ジョンスに告白したのかもしれません。
そして小説家(を目指している)ジョンスだからこそ、その意を理解してくれるのではないか、と…。

この殺人のヒントをちりばめた描写は原作には一切書かれていない、1つの解釈ルートです。
その解釈をもう少しわかりやすく映像化してあって、映画らしく仕上げてあって面白かったです。

ヘミ自身も嘘つきというレッテルがあったり、一切姿を最後まで見せない彼女の飼い猫など、謎に包まれています。

そもそも最初にヘミとセックスした時でさえ、行為に熱中できず、1日に一瞬だけ当たる光を見つめています。

彼女不在の部屋に行く毎にジョンスが自慰行為をしていたのも、「愛するヘミ」そのものの存在が彼の中で半信半疑だったのではないかと推測しました。
そんな信用できない彼女への怪しい気持ちを自分自身で打ち消して、彼女の存在を肯定したかったのではないかなと感じました。

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しかしながら、作品全体に言える一番のポイントとして、
「本当に、そうなのか?」という点が常にこの作品に付いてまわる部分です。
ヘミが最初に言った、セリフが印象的です。

「頭に(みかんが)あると思わないで、
そこに(みかんが)無い事を忘れればよい」

結局、ベンは本当に人を殺していたのでしょうか?
ヘミの行方は?そもそも”本物”のヘミだったのでしょうか?あの猫は”ボイル”だったのか?
それは誰にもわかりませんし、語られていません。
残念ながらこれは視聴者個人の解釈に委ねられているのですが、なかなか考えると面白かったです。

最後のシーン、”目撃者”と思われるトラックも通ります。
一番ハッキリと視聴者が確認できる”燃やしている人”は、ジョンスという描写。
結局、ベンに対して「警察は目もくれず」、ジョンスは恐らく目を付けられると思われました。
この辺りも、ジョンスは結局なにもかも最後までベンとは”世界が違う”という対比が素晴らしいと思いました。

ただジョンスの父親の生き方のくだりは、少し情に訴えるようになっていたので、個人的には若干微妙なエピソードの印象をうけましたが…。

他にも解釈は色々あると思いますが、個人的にはこのように理解した映画でした。
特に屋外の風景シーンの雰囲気などが素晴らしかったし、元々の短編小説を読んでいたので、かなり興味深く楽しめた映画でした。

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